研究課題/領域番号 |
18K01158
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
杉浦 真一郎 名城大学, 都市情報学部, 教授 (50324059)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 地域包括ケア |
研究実績の概要 |
鈴鹿亀山地区広域連合への調査から,次の諸点について明らかにした。同広域連合では,介護保険事業特別会計決算において2020年度に基金を約1億2千万円積み立て,地域協議会との連携が取りにくかったことや相談件数が増加してきたことを主な背景として2021年度から地域包括支援センターの地域的枠組みを従来の5包括体制から10包括体制へ分割再編した。このうち亀山市の第1地域包括支援センターでは,2020年度までの受託法人による運営計画で予定されていた新設の拠点開設は延期となり,仮の拠点を引き続き賃借して当面は運営する対応が取られている。同市内の2つの包括では,体制移行前に市内の各まちづくり協議会に説明の機会を設けた効果から,圏域区分が住民にも理解されているとの手応えを得ている。第2包括による旧関町など市西端集落への往来は,冬季の降雪時を除いて,移動時間などほぼ支障がない。介護保険事業の保険給付の食費および居住費の基準変更による負担に関して2021年8月からとくに資産要件(預貯金など)の面で補足給付の要件が厳しくなり,198件が非該当になった。また地域支援事業における口腔ケア指導に関して,コロナ前から訪問サービスCにおける口腔ケア利用者は年に4~5名程度しかいないのが実態であり,歯科の診療報酬との兼ね合いで難しい現実がある。介護認定に要する日数について,新規申請に対して認定が出るまで平均して51日を要するなど,従来よりも2週間程度伸びており,本来は1カ月程度で認定結果を申請者に示すべきところ,大幅に超過した日数を要している。認定調査員は,2021年10月1日現在で7名が従事しているものの4名が欠員状態であるなど,人手不足が時間を要する原因となっている。同広域連合では,2021年8月および10月から,それぞれ認定調査員の資格要件を少しずつ緩和して募集中であるが,近隣他市町でも同様に認定調査員の確保に苦労しているなどの状況が続いている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査地域において第7期から第8期介護保険事業計画期間(2021~23年度)への移行に伴って,保険者地域を分割する日常生活圏域の再編およびその拠点再配置が実施されたことをふまえて,保険者(広域連合)による第7期の介護保険運営の総括や第8期に入ってからの課題について定例の会議体への傍聴等を通じた調査が実施できた。また,とくに亀山市における地域包括支援センターへの調査によって,体制の再編後に実際に新しい受託法人によって運営されている包括の状況を聞き取り調査などを通じて観察する機会を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
掲げていた主な研究課題,とくに地域包括ケアに関わる行政上の地域的枠組みとして地域包括支援センターの分割配置の実情をより詳細に分析していくことが大きなテーマとなる。地域包括ケアシステムをめぐって,日常生活圏域の設定と地域包括支援センターの機能配置による従来からの体制構築の状況を明らかにした上で,高齢化の進展と多様な相談対応の増加を背景に,機能強化を図る必要性から実施された圏域再編と地域包括支援センターの再配置の過程について分析していく。今後,さらなる高齢化の進展や高齢者人口の増加によって,地域包括ケアをめぐる圏域の再編とそれに伴う拠点の再配置を検討する自治体が全国的にも増加していくと予想される中,その円滑な移行と安定的な運用に必要な方策について考察したい。その論点には,第1に,担い手となる事業者の確保の問題がある。包括の運営を受託することに逡巡する法人が少なくない主な理由には必要な3専門職の確保をめぐる負担の大きさが挙げられているためである。第2は,住民や地域団体との関係構築の問題である。これは近年さかんに言われる地域包括ケアによるまちづくりとも関連しており,再編後の圏域が自治体による様々な行政施策上の地区単位と整合的に形成されるとともに,それが住民にいかに認知されるかも問題となる。第3は,地域的・組織的階層性と地域包括ケアのあり方に関する問題である。分割再編によって圏域が従来よりもコンパクトになる場合,既存の受託法人と新規参入の法人との間での格差が生じる懸念もある。多職種や関係機関相互の連携といった課題を補う意味で,保険者と個別の地域包括との間で階層的な空隙を埋める基幹型地域包括支援センターがもつ地域包括ケアにおける業務上の役割に関する問題と,広域保険者地域における保険者と構成自治体との間で相互に調整されるべき役割分担の問題についても検討が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用予定額として想定していた調査出張に関して,社会情勢の急速かつ深刻な変動に伴って,調査日程の調整と確定に時間をかける必要があったため,主に遠方の地域に関して,無理な調査日程を組まずに慎重な経費執行を選択した。
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