研究課題/領域番号 |
18K01161
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
高橋 春成 奈良大学, その他部局等, 名誉教授 (70144798)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 泳ぐイノシシ / 分散 / 人為的圧力 / 被害と対策 |
研究実績の概要 |
本年度も、佐賀県唐津市の加部島、広島県呉市の大崎下島、滋賀県近江八幡市の沖島において、自動撮影カメラによる海岸・湖岸付近での生態・行動調査を中心に実施した。 加部島では、頻度は少ないが、海岸を利用する単独のイノシシや親子のイノシシが確認できた。これらのイノシシは、海岸を餌場や移動コースとして使用しており、イノシシが海岸を行動圏の一部としているようすが伺えた。また、ウリ模様の入った子イノシシを伴った親子が見られたことから、近くで繁殖しているようすも伺えた。大崎下島では、単独のオス(成獣、亜成獣)、子イノシシを伴った親子、成長した複数のイノシシと子イノシシの群れなどが、頻度高く見られたことから、ここでもイノシシが海岸を行動圏としているようすが伺え、また、ウリ模様の入った子イノシシを伴った親子が見られたことから、近くで繁殖しているようすも伺えた。沖島でも、単独のオス(成獣、亜成獣)、子イノシシを伴った親子、成長した複数のイノシシと子イノシシの群れなどが、頻度高く見られたことから、ここでもイノシシが湖岸を行動圏としているようすが伺え、また、ウリ模様の入った子イノシシを伴った親子が見られたことから、近くで繁殖しているようすがうかがえた。 これらの結果から、外洋にある加部島、内海にある大崎下島、湖にある沖島いずれにおいてもイノシシが岸辺を行動圏としていることがうかがえた。このようなイノシシの実態から、海や湖を泳いで分散する個体がいるものと推測されるが、今回の調査においては、泳ぐイノシシの姿をカメラで捉えることはできなかった。ただ、沖島において、1分あまりにわたり、湖に入り、水の中に鼻先を入れたり、腹部がつくまでの深さの水中を歩いたり、泳いでいるようなイノシシの動画がとれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調に進んでいるのは、次のようなことが分かってきたからである。西南日本の各地の島に泳いで渡るイノシシの実態解明において、外洋の島である佐賀県唐津市の加部島、内海の島である広島県呉市の大崎下島、湖の島である滋賀県近江八幡市の沖島で、継続して自動撮影カメラ(動画)を設置することにより、いずれの地域においても、海岸部や湖岸部までイノシシの生息域が拡がり、イノシシが海岸部や湖岸部で食料を得たり繁殖しているようす、海岸や湖岸を移動したりしているようすが明らかになってきた。いずれの島も、本島部からイノシシが泳いで渡ってきたと考えられるが、これらの島においても、過疎化や高齢化、耕作放棄地、放置竹林、放置ミカン園などが拡大し、それに伴って、渡って来たイノシシが繁殖し、海岸部や湖岸部を含めて生息密度が高くなっているようすがうかがえた。 それぞれの島に外部からイノシシが泳いで来たり、島のイノシシが泳いで出ていく動画を入手することは今だ出来ていないが、沖島においては、1分あまりにわたり、湖に入り、水の中に鼻先を入れたり、腹部がつくまでの深さの水中を歩いたり、泳いでいるようなイノシシの動画がとれた。これまでの情報から、イノシシが海岸部や湖岸部で食料を得たり、繁殖していることが分かり、また、水に慣れ親しんでいることも分ってきた。このような状況の中で、イノシシが自然に分散したり、狩猟圧などにより人為的に分散して、泳いで他の島などに渡っている構図が浮かびあがってきた。
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今後の研究の推進方策 |
調査を継続している3地域でのイノシシの行動・生態調査を、自動撮影カメラによる調査をメインに継続し、海岸や湖岸周辺でのイノシシの行動・生態についての情報をさらに入手していく。そして、イノシシが泳いで分散する要因について考察する。 イノシシの被害対策については、イノシシが泳いで渡ってきた島々と周辺の本島部をあわせた広域的な枠組みの中で地域住民、地方行政、地元の猟友会などが連携しながら取り組む必要があると考えているので、そのような観点から適切な対応策を提案する。 現地では、地域住民、地方行政、猟友会ともに海岸や湖岸周辺のイノシシの行動・生態についての正確な知識をもっていないと考えられるため、それらの生態・行動に関する情報を提供し、地域の自然条件や社会条件に則した効果的なイノシシの被害対応策を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
カメラに使用するリチウム電池やUSBの数が当初の予定よりも少なかったため。これらについては、次年度において、カメラ購入の一部に充てる予定である。
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