最終年度は、2021年12月に設置したカメラに海を泳ぐイノシシが複数映った岡村島と、その対岸にある小大下島で継続調査を実施した。今回回収した岡村島の3台のカメラ(撮影期間4月30日~最長9月12日)と小大下島の2台のカメラ(4月30日~最長7月10日)のデータからは、小大下島で夜間に海の中に入り、鼻を海水の中に入れているイノシシが見られたものの、イノシシが泳いでいることが明確に示されるものはなかった。さらに情報を積み重ねる必要があるが、狩猟期や繁殖期などにおけるイノシシの行動が島嶼間を泳ぐイノシシを生み出す特徴的な要因の一つになっている可能性が示唆された。これまでに収集したイノシシの行動データを比較すると、泳ぎ出しや上陸が見られる事例では、岸辺をうろついたりせず、直線的に海に入っていったり、岸から上がってきており、イノシシは目的意識をもって泳いでいると考えられる。 調査を実施した唐津市の加部島、瀬戸内海の大崎下島・岡村島・小大下島、琵琶湖の沖島などのほとんどの岸辺で、小イノシシを連れた親子が見られたので、岸辺が繁殖や子育ての適地となっていることが分かった。気温の較差が小さく子育てに適すること、また、岸辺での食料補給、海岸での塩分補給、湖岸での水分補給なども可能で、良好な日当たりや茂みがある場所は、イノシシの好生息地となっていると考えられる。このような状況が近年の泳ぐイノシシの背景にあることに留意し対応を図る必要がある。 泳ぐイノシシの実態と効果的な対策についての啓発は、県や市町村レベルの担当者、猟友会、島の駆除担当者・区長・農家などとの情報交換や協同活動によって随時実施した。滋賀県では、県のイノシシ会議の中で担当者や猟友会などに啓発した。さらに、作成した資料・著書・報告書を環境省・農林水産省はじめ各関係者に配布し、狩猟雑誌・新聞・テレビの取材への情報提供による啓発も行った。
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