研究課題/領域番号 |
18K01162
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
曽我 亨 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (00263062)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 民族対立 / 文化進化論 / 文化繋留型ゲーム / ジレンマ / 牧畜社会 / 東アフリカ |
研究実績の概要 |
令和1年8月25日から9月9日にかけて、エチオピア国オロミア州ボラナ県において現地調査を実施した。調査においては、最初に、平成30年9月以降の1年間 に発生した民族紛争や殺人などの記録を確認した。この期間は、民族対立がさらに激化しており、102件の事件が生じていた。これらの事件について、原因や場所など細かな聞き取りをおこない、紛争のなかで人々が感じたジレンマを抽出した。 また、民族対立が激化した背景を包括的に理解するため、国家的文脈に注目した。アビィ首相は就任以降、政治犯やジャーナリストを開放したほか、海外に亡命していた政治指導者を迎え入れたり、禁止されてきた野党が選挙に立候補できるようにしたりするなど、民主化を進めえてきた。こうした動きに呼応して、各地で抑圧されてきた人々が声を上げるようになってきた。とくに調査地に近い南部諸州のシダマ地域では、南部諸州からの分離をもとめる動きが強まり、その是非を問う住民投票が7月に予定されたり、延期されたりしたことで、政治的な抗議と暴力が引き起こされてきた。また調査地に隣接するグジ地域でもグジとゲデオの対立が引き起こされてきた。さらに、南エチオピアと北ケニアの国境地帯においては、ガブラとボラナのあいだで8月に武力紛争が起きているが、その政治的背景は不明であった。 これらの民族誌的調査に加えて、前年に設計したおもちゃのコインと封筒等を用いたアナログ仕様の囚人ジレンマゲームの試行を行った。囚人のジレンマゲームには利得構造が仕組まれているが、試行してみたところ被験者から、利得の一部がイスラム教の「利子」にあたるのではないかとの疑義がでた。本研究では、文化繋留型のゲームを用いて民族紛争が激化する背景を文化進化論的に考察するものであるが、ゲームの構造に宗教的な規範が組み込まれておらず、ゲームについては再考する必要性が生じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画に記したとおり、(1)民族対立の事例を多く集めることができ、その詳細な聞き取り調査から、ジレンマ状況などを抽出することができた。一方、(2)文化繋留型ジレンマゲームについては、ゲームに宗教的規範への対応が組み込まれていなかったことが判明し、十分な実施ができなかった。以上のことから、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
民族紛争についてのデータが十分にとれていることから、事例研究を充実させることで、文化進化論を解釈に適用する可能性をさぐる。また、ムスリム社会において囚人のジレンマゲームが実施されていないわけではないことから、調査の障害となりうる「利子」の問題を先行研究がどのように処理しているかを参考に、文化繋留型ゲームの設計をやりなおす。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行により、予定していた研究会に参加できなかったことから、当該助成金が生じた。次年度においては海外調査において使用していくことを計画している。
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