研究課題/領域番号 |
18K01163
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
瀬川 昌久 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (00187832)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 族譜 / 中国南部 / 前近代 / 父系出自 / 拡大家族 / 経年変化 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続き、東京大学東洋文化研究所図書室所蔵の「沙田文献」の中の族譜資料を集中的に閲覧し、それを用いて前近代から近代初期に至る中国南部地域の族譜の中の家族形態の特色、特に父系傍系型拡大家族の存在比率等について具体的に分析した。そして、それらの成果を学術論文「族譜を通じてみた家族像―香港新界沙田W氏一族における『家(チア)』単位の経年変化」(『東北アジア研究』24号)として執筆し、年度末までに公表した。 同論文では、個々の成員が生前に所属していた家族単位の形態と、その経年変化に関わる詳細な分析を行った。そこからは、それぞれの家系における家族形態の多様な変遷の過程が復元できるとともに、平均すれば半数以上の人々が、生前のどこかの時点で傍系型拡大家族形態の「家(チア)」単位の一員であった経験をもつことが、数値として確認できた。 族譜には生活実態についての情報が乏しく、共住や家系の共同などの機能面がそぎ落とされた記録ではあるものの、それが逆に中国的意味での「家族」の成員権やその外縁的範囲を明確に示す性格のものであることが実証できた。このように、本研究では族譜が単なる地域史や著名人の研究における補助資料としての価値にとどまることなく、歴史人類学的な家族研究の資料として、貴重な利用価値をもつものであることが提示できた。従来、族譜は祖先の系譜記録のみを記載した資料であり、そこから過去の具体的な家族像や家族・親族に関する過去の人々の観念を抽出することは困難であると思われてきたが、本研究は其れが可能であることを実証的に示した点に大きな意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初に目指していた「沙田文献」の中の香港新界沙田W氏一族関連の2つの族譜のPC入力と、表計算等を用いたその分析は、すべて前年度中に完了することができた。本年度はその補完資料の収集入力を行った。そして、その資料を用いて、前近代から近代初期に至る中国南部地域の族譜の中の家族形態の特色、特に父系傍系型拡大家族の存在比率等について具体的に分析し、本研究課題の成果としての2本目の学術論文を完成させ、査読付き学術雑誌『東北アジア研究』に投稿して受理され、2020年3月26日に発行となった。さらに、これまでの研究成果を総合する学術書の執筆にも取りかかっており、それも次年度末までには完成する見通しとなった。したがって、これら申請当初に策定した計画をすべて実行し、その成果を着実に学術論文・学術書として公表できていることから、当初に目指した目的を十二分に達成できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの研究成果を基礎に、それらを総合した最終的な研究成果の執筆を進める。東京大学東洋文化研究所図書室所蔵の「沙田文献」所収の族譜中の補遺資料のPC入力も継続しつつ、これまでに分析を終えた人口動態、養子縁組、寡婦・妾、家族形態の変遷等の結果を総合して、最終的には族譜という記録を通じて前近代中国社会における「家族」の形態とその動態がどの程度まで描き出せるのかという挑戦的試みへの答えを導出するとともに、そこに仮定されている系譜の連続性に関する意識の分析から、彼らの歴史意識の具体像に迫る。そして、それらを一冊の学術書としてまとめ、年度末までに公開する。
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