研究課題/領域番号 |
18K01167
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
深澤 秀夫 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (10183922)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マダガスカル / 法制史 / 社会人類学 / 損失の回復可能性 / 民衆裁判 / 現地人司法制度 |
研究実績の概要 |
19世紀のイメリナ王国の法令集、20世紀にフランス植民地下で実施された「現地民司法制度」をめぐる実施要領解説書、北西部農村の「村内規定」、現行マダガスカル共和国法令集を読解・分析した結果、マダガスカルではまだ西欧の近代法概念の根本を成す「民法」と「刑法」の区分が民衆レベルで十分には受け入れられておらず、その結果、国家の法制度が民衆の求める「損失の回復」を十分に保証していないのではないかとの予測を得るに至った。すなわち、西欧近代法概念においては、「刑法」が国家の個人への介入を前提とする一方、「民法」は対等な個人同士の関係を前提としており、そのため「民事不介入」の原則が成立する。しかしながら、19世紀のイメリナ王国の法令集および現在の農村の「村内規定」は、それぞれが直面している問題への対処方法を取り決めているだけであり、国家が個人の領域に介入する事を規制していないだけではなく、逆に個人が「刑法」のような国家の専管事項や領域の存在を承認していない事の可能性をも招来していると考えると、多くの「制裁」と「賠償」をめぐる社会現象に対し、一貫した説明を付与する可能性が高い。 「民衆裁判」とマダガスカル語で呼ばれる、民衆が拘束した犯罪被疑者を治安機関や司法手続きに委ねる事なく、直接的な肉体への物理的暴力を加え、時には死に至らしめる行為も、単に治安機関や裁判制度に対する民衆の信頼度の低さや治安機関へのアクセスの悪さに起因するものではなく、「刑法」行為は国家の専管事項であるとの民衆の側における共通理解が十分に担保されていない事が背景にあると想定する事が、国家による「民衆裁判」の抑止が進んでいない現状等をよりよく説明している。 また、北西部地方における<多数の槍>と名付けられた「地域自警団」の急速な組織化とこれに否定的な現地治安機関と間の緊張関係も、上記の視点から読み解く事が可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、2019年7月22日~10月7日の間、マダガスカルにおいて臨地調査と文献資料調査を実施した。 また、2020年1月20日~2月17日の間、マダガスカルにおいて臨地調査と文献資料調査を実施した。 それゆえ、研究計画はおおむね順調に進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、2020年10月~11月の間、マダガスカルの首都アンタナナリヴの公文書館において19世紀イメリナ王国時代の法制史関連資料に記載されている「賠償」関連概念を調査すると共に、北西部のマジュンガの町および北西部地方の村落において、「民衆裁判」および「地域自警団」組織化運動にかかわる資料を臨地調査に基づいて収集する。 2021年1月~2月の間、マダガスカルの北西部の町マジュンガにおいて「民衆裁判」と公的裁判の事例を収集すると共に、首都アンタナナリヴのアンタナナリヴ大学考古-芸術博物館の調査者会合でその時点での「マダガスカルにおける損失の回復可能性」をめぐる研究成果について報告すると共に、研究員と意見交換を行う。 ただし、コロナウィルス感染をめぐるマダガスカルと日本における状況と対応により、上記の調査日程等については変動する可能性がある事を付記しておく。
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