研究課題/領域番号 |
18K01174
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
内堀 基光 放送大学, 教養学部, 客員教授 (30126726)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 居住空間 / ロングハウス / 現代性 / 社会的強靱性 / イバン人 / ボルネオ島 / マレーシア |
研究実績の概要 |
本研究は、マレーシア・サラワク州に住む民族集団であるイバン人のロングハウスという居住様式の変遷から、社会変容と国民国家内における民族集団としての意識、アイデンティティの強靱さを探り、日常生活と世界的、国家的な政治経済状況との関連を解明することを目的としている。この研究によって、グローバリゼーションと政治、経済体制の変化を受けた日々の生活の現代化がイバン人社会という、一面では地域の有力民族集団であり、他面では国民国家における少数者エスニック集団であるという両義的地域社会の存続の様態とその能動的意義を秤量することが出来る。 主要な研究方法は、広域的調査と集中的調査の両方を含む現地調査によるものであり、これによって得られた資料を、現地の大学機関および文化財団等に所属する研究者との討議の材料としつつ、現代のいわば「周辺」地域における生活空間論を構築しようとする。 これまでの研究で確実になったことは以下のことである。 イバン人はロングハウスでの集住について強い民族的自負心をもっているが、サラワクでロングハウスはイバン人だけのものではない。したがって、これに関わる文化アイデンティティについては両義的なものがあるが、これは現在サラワクに芽生えつつある「サラワク人のためのサラワク運動」に代表されるマレーシア国家における少数派民族集団という政治的に微妙な問題に関わるのでもある。モダンな生活空間での行動コードの刷新は、共同体に関わる儀礼の変化と家屋の象徴性の空洞化を引き起しているが、これについての住民の正負の評価はイバン社会の将来の強靱性を予測することに通じることから、研究の初年度および第2年度には、証言集としてこれを確実に記録した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和1年度は研究計画第2年度にあたる。初年度にひきつづいて、サラワク州における最大多数民族集団であるイバン人のロングハウスと呼ばれる集住共同体(集落に当たる)を複数軒訪問し、その建築様式、変遷過程、家族構造、生業などを質的に比較するとともに、数量的にもデータとして蓄積するための現地調査を行った。この調査では、広域的な調査をともないつつ、一部の集落においては、長めの滞在をして、綿密で深厚な記述をも追究した。 具体的には、6月から7月にかけての1か月間、サラワク州中央部のラジャン川流域(シブ省、カピット省、ビントゥル省)の諸集落を調査対象とした。第2回目はビントゥル省の残りの一部と、北に隣接するミリ省、リンバン省の諸集落を対象として実行した。これらの調査は、昨年度のサラワク州南部を対象とした調査に続くものであり、今回の調査によりサラワク北部の計画調査のおよそ半分を終えた。 上の現地調査の期間中、サラワク州の州都クチン市においては、マレーシアサラワク大学において学部および大学院生を対象とする講演を行ない、日本人によるイバン社会の研究の独自性を説明した。また研究において協力を得ているジュガ文化財団の研究機関誌であるNgingit誌へ「イバン人の空間認知のあり方」に関する英文論文を寄せ、これについて同財団所属の研究員および財団理事長と討議を重ねた。この論文は討議内容を含めて令和2年度に同誌に掲載が決定されている。 このように本研究の主題にあたる調査、研究は令和1年度において順調に進み、次年度以降の研究に成功裏につなげられている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は研究計画最終年度にあたる。これまでのところ、マレーシア・サラワク州のイバン人居住地区における現地調査は順調に進展しているものの、今年度は新型コロナウィルス肺炎症の影響で、現地がMovement Control Order(移動規制令)下に入っているため、いくぶん先行きの見通せないところがある。8月上旬までにこの規制が解除ないし大幅に緩和されることになれば、8月下旬以降の現地調査を執行し、これまでの2年間でカバーしえなかった地区──とりわけサラワク北部と中央部の内陸最奥部──のロングハウスの現状を調査する。これが不可能になった場合には、研究計画の1年延長を申請し、研究資金の一部、場合によっては全額を来年度に繰り延べることになろう。研究成果の発表に関しては、ジュガ文化財団の英文研究誌が場を提供してくれている。したがって、現地調査執行の可否にかかわらず、これに「生活空間論」、「建築現代化」を主題とする論文を寄せることになる。
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