研究課題/領域番号 |
18K01174
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
内堀 基光 放送大学, 教養学部, 客員教授 (30126726)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イバン人 / サラワク / 家屋 / 生態環境変化 / 社会経済環境 / 民族意識 |
研究実績の概要 |
本研究計画はマレーシア・サラワク州におけるイバン人に特徴的な居住形態である長大家屋(ロングハウス)の現代化の実情を追い、その変化と持続の諸様相の社会経済的基盤と効果を考察しようとするものであり、サラワク州現地におけるフィールドワークを主要な研究手法としている。本来3年計画の研究であったが、期間を1年延長した2021年度は、新型コロナの蔓延によりふたたび完全に国内待機せざるをえなかった。この間、サラワク州の協力機関、研究者とは定期的な連絡を保っていたが、州副首相でオーストラリア国立大学の人類学研究室で博士号をとったJames Masing氏がコロナ感染により死去するなど、年度中の現地の状況は相当悪く、フィールドワークの再開の目処は2022年度を待つことになった。 現地の協力機関であるトゥン・ジュガ財団(イバン文化と社会の調査研究と保全を目的とする民間財団)の刊行する研究誌Ngingitには、本研究計画中に複数回論文、あるいは短報を寄稿しているが、研究代表者内堀は2021年度もイバンの地形と環境に関わる認識の変容をあつかった論文を発表した。これは、本研究計画の成果として発表する予定である居住形態の変化の前提となる環境との関わりについての論考であり、現地調査が執行できない現状のなかでのポジティヴな成果になっている。 2021年度はまた、居住形態との関連で重要なイバンの宗教儀礼について、部分的ではあるが空間認識上きわめて重要な死者儀礼、およびその釈義の役も果たす葬歌テキストの記述と分析を進めた。これによって社会経済的側面、生態的側面のみならず、居住形態の変化と持続が内包する象徴的、観念的側面を深く探るアプローチを確立しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究課題の進捗がやや遅れているのはもっぱら新型コロナウィルスの蔓延によるマレーシアおよびサラワク州現地の封鎖にも等しい状況による。この間の我が国からの海外への渡航に関わる種々の障碍もフィールドワークはこのために満2年以上にわたって執行できずにいる。この間は、過去のフィールドワークデータの整理、英文による論文・報告の執筆を行ない、サラワク現地および豪米英の研究者と研究の現状に関する情報を交換してきた。現在、研究の重点を19世紀から20世紀中葉にいたる旅行記や行政官による著述に現れたイバン人をはじめとする先住諸民族の家屋形態の整理に置いている。これによって今日のフィールドデータの通時的文脈における意義を確定することになる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度6月以降に1か月弱の現地調査を行なうことにより、本研究計画におけるフィールドデータ収集のいちおうの完了を目指す。本来の最終年度たる今年度に予定されていた2度の現地調査をすべて執行することはできなくなるが、サラワク中央部ラジャン川上流部のKapit省におけるロングハウスの現代化に重点を置くことにより、これまで行なってきた地域におけるそれの特徴をよりはっきりと浮き上がらせることができると考えている。次年度に予定されていたボルネオ研究協議会(Borneo Research Council)の研究大会は翌年度に延期されるが、そこでの発表を目途として、研究計画全体の報告書の作成に入る。いずれは英文による刊行を企図しているが、それに向けて現地財団の研究誌に報告を寄せる。これらにより、研究計画の目標は大方達成される見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由はもっぱら新型コロナウイルス感染症対策のためフィールドワーク現地(マレーシア・サラワク州)への調査旅費が執行されなかったことによる。次年度に生じた使用額の大方を再開が可能となると期待されるマレーシア現地への渡航旅費に充てる。本年度に予定されていた渡航航空賃は、すでに昨年度中に払い込み済みであり、利用運行会社の運行中止によりオープンチケット化されていたが、この有効期限が不確かであり、これにより次年度の旅費執行額に不確定な明細部分が残っているが、全体としては問題なく執行される。
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