研究課題/領域番号 |
18K01176
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
細谷 広美 成蹊大学, 文学部, 教授 (80288688)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 先住民 / ライフヒストリー / 平和構築 / 国内避難民 / アンデス / グローバル化 / NGO / ペルー |
研究実績の概要 |
本研究は多様な民族、集団からなる国家における紛争後の平和構築を、当該国家における国民統合の過程と関連付け、イ―ミックな視点を取り入れて検討することに独自性と意義がある。そのために国内避難民となった先住民のライフヒストリーを収集し分析する。 ペルーの紛争では、死者及び行方不明者75%が先住民であり、犠牲者が先住民に集中した。紛争がはじまる以前、アンデス先住民のナショナルアイデンティティは希薄であった。また非先住民を「ミスティ」と呼び区別してきている。しかし、反政府組織と政府軍による攻撃で村を追われ、国内避難民となって都市周辺部に強制移住する過程で、先住民の人々は国家やグローバル化が進む国際社会と対峙することになった。これにより、ペルー人としての自らの位置を意識するようになるとともに、国家のシステムを学び、政府や国内・国際NGO等と交渉しながら生活再建を試みた。本年度はこれまで収集した資料、国内避難民となった先住民へのインタビューの分析を進めた。具体的な実績として以下がある。 (1)グローバル化が進む国際社会において、共通の基盤となる正義が形成される過程と、ローカルな現場との関係のダイナミズムをめぐって実施した共同研究会の成果を編集出版し、先住民と平和構築の関係を扱った論文を執筆した。 (2)バルセロナで開催されたラテンアメリカ・カリブ海地域研究者の世界最大の国際学会であるLatin American Studies Association(LASA)で研究成果を発表した。ペルーの研究者や関連分野の研究者と情報交換、意見交換をすることができ本研究の進展に有益であった。 (3)他機関の協力により、秘密墓地の発掘に焦点をあて、ペルーの紛争及び平和構築を研究している人類学者を招き、公開講演会を開催しコメンテーターをした。国際学術交流として重要な意義があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は諸般の事情によりペルーで長期のフィールドワークを実施することができなかったが、繰り越し金が生じたことで、2年目により長期のかつ規模を拡大したフィールドワークを実施することが可能になった。夏季休業中に実施するフィールドワークに向けて、すでに現地の研究者と連絡を取り合っている。 別の研究プロジェクトで南アフリカに資料収集に行くことができた。南アフリカの真実和解委員会は移行期正義の転換点となっており、ペルー真実和解委員会も多大な影響を受けている。南アフリカの真実和解委員会に関する資料収集をするとともに、アパルトヘイト後の現状を直接みることができたことは、本研究の今後の展開において非常に有益であった。加えて近年アフリカでも先住民運動が顕在化しており、南アフリカにおける先住民とはどのような存在であるのか、トライブとどのように異なるのかということに関して資料収集することができた。この点は、ペルーの先住民を国際社会及び国連をはじめとする国際機関との関係の脈絡において位置づけるうえで大きな意味があった。 世界最大のラテンアメリカ地域研究者の学会であるLatin American Studies Associationに参加、発表することで、海外の研究の最新の情報を得たり意見交換することができ、本研究を進めるうえで大いに役立った。また、秘密墓地の発掘について調査研究しており、LASAとAmerican Anthropological Associationという二つの重要な国際学会で書籍が部門賞を受賞したイサイアス・ロハス=ペレス博士を招き、政治学者、アジア地域研究者(国際関係論)をコメンテーターに招いて公開講演会を実施した。これは、海外研究者と日本の研究者との国際学術交流として有意義であっただけでなく、他の専門分野及び他地域の研究の文脈に、本研究を位置付けるうえでも重要であった。
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今後の研究の推進方策 |
アート・アクティヴィズムとして、他民族・多文化国家や人々の記憶をテーマにしてきており、国際的に著名なペルーの劇団ユヤチカニの主催者が来日するのにともない、上智大学で開催されるレクチャーシリーズでレクチャーをおこなう。また、6月に開催される日本文化人類学会の研究大会で、研究成果の一部を発表する。 夏季休業中に約1カ月間ペルーで調査研究を実施する。国内避難民となった先住民の人々がどのような経験をしたかということを、ライフヒストリーの収集を通じてイ―ミックな視点から明らかにする。大規模な国内避難民が生じた1980年代からすでに30年以上を経ており、第1世代が高齢化している。このため、ライフヒストリーの収集は急務となっている。現地の研究者にも協力を依頼する。また、先住民のうち、高齢者、女性は先住民言語であるケチュア語を母語としておりスペイン語を流暢に話せる人々が少ない。このため、ケチュア語に堪能な調査助手を雇用し、テープ起こし、ケチュア語からスペイン語への翻訳を依頼する。 帰国後、収集したデータの整理分析を実施し、あわせて文献を通じて理論的検討をおこなう。国際学会で研究成果の発表をおこない、本研究内容及び方向性について意見交換する。また、論文執筆をおこなう。 最終年度は再度ペルーでフィールドワークを実施し、国内外での学会発表、論文発表、また研究成果の社会への還元をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
諸般の事情により、当初予定していたペルーでの約3週間のフィールドワークが実施できなくなったため。(長期出張ができなくなったのは、学内業務、書籍の編集出版、異なる助成金による海外調査及び他の分担科研によるペルーでの調査、家族の病気等の理由による) しかし、次年度に繰り越すことで、次年度に使用できる旅費、謝金が増えたため、より長期のかつ規模を拡大したペルーでのフィールドワークを実施することが可能になった。次年度は夏季休業中にペルーで1ヶ月間のフィールドワークを実施することを予定している。ペルーでのフィールドワークに向けてすでに準備を進めており、実施にあたって協力を依頼する現地の研究者とも連絡をとり合っている。
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