いわゆる「上野神話」について、物語の担い手となったと考えられる宗教的職能者集団(宮司、神主、修験、その他)の由緒や伝説を個人所有の貴重資料をもとに調査し、人々の歴史実践が「地域史」を創り出すダイナミズムを史料に基づき明らかにした。特に、本研究期間中の目立つ成果としては、上野国一宮大宮司小幡家文書をはじめとする貴重な宗教史関係の史料群を調査できたこと、さらに、大宮司らと歴史的意識を共有する多数の民間宗教者たちの子孫にインタビューすることができたことが重要である。 上野国一宮大宮司小幡家文書は今回の調査に限って被見を許されたものであり、全資料を一括してデジタルデータとして整理記録できたのは幸運であった。もちろん、文化財的価値の高い一部中世資料については、これまでも政治史研究者による調査実績があるが、歴史民俗学的な価値をもつ資料についてはほぼ学界未見のものであり、データは当該分野の今後の研究に益すと思われる。 なお、文書調査を予定していた一部神社の資料群については、コロナウィルス禍や、所蔵者の物故などの思わざる事態の発生のために、研究期間内に調査を行うことができなかった。研究代表者はコロナウィルス禍の収束後、改めて再調査を行うことを希望していたが、社会状況の変化のため、そうしたことは不可能であった。そのため、本研究期間内においては、比較的研究容易な社会集団の史料のみに研究対象を絞ることになった。
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