研究課題/領域番号 |
18K01183
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研究機関 | 北海道博物館 |
研究代表者 |
甲地 利恵 北海道博物館, アイヌ民族文化研究センター, 研究職員 (20761638)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アイヌ音楽 / 民族音楽学 / 北方諸民族 / 神謡 / 語りもの音楽 / 旋律構造 / 声の技巧 |
研究実績の概要 |
令和5(2023)年度は、研究計画(課題期間の延長に係って昨年度変更したことを含む)に基づき、下記3本の柱立てについて進めた。 (1)アイヌの歌の旋律構造の分析:旋律に乗せて語る「神謡」の旋律構造と演唱スタイルについて前年度にまとめた論考(「アイヌの歌の伝統的な技巧の、ジャンルによる使い分けについてのノート」)の普及として、所属機関での普及行事枠で一般向けの講座を実施した(「じっくり聴こう!アイヌの音楽」シリーズとして5月と7月に実施)。音楽分析作業については次の(2)及び(3)の作業を優先したため、とくにまとまった成果はない。 (2)アイヌ音楽及び関連する北方諸民族の芸能に関する情報収集:アイヌの歌の発声技巧の具体的な習得に係る最新の知見を得るため、かねてより構想していた、アイヌ音楽研究者の一人である千葉伸彦氏の博士論文(2019年度東京藝術大学)に係る勉強会を開催した(10月)。本来、本研究のもっと早い段階で実施すべきであったが、時期的にコロナ禍が重なったためいったん計画を断念していた。勉強会にはアイヌ音楽や北方諸民族の音楽文化の研究者や演奏家にも参加を呼びかけ、千葉氏による講義やワークショップ的実践を通じて意見交換を行い、本研究の推進にとって有意義な学習ができた。 また、年度末に向けて、本研究以前からも参照してきた情報を含め、アイヌ音楽の音楽学的研究及び関連する専門的研究に係る文献の情報を整理し、所属機関の研究紀要への投稿を通じて、収集した情報の公開・共有を図った。 (3)北方諸民族の芸能を記録した音声映像資料の調査等:国立民族学博物館に寄贈されている故・谷本一之氏(アイヌ音楽研究・北方諸民族の音楽研究)の研究資料について、同館の担当者と協議し、北方諸民族の芸能調査(甲地も過去に参加した)に係る写真資料にの基礎情報(撮影場所、日時、人物など)の整理等に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍その他により当初計画を何度か変更縮小しており、本研究の開始前の構想に比べると不十分ではあるが、途中から変更した範囲では概ね進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度となるので、(1)(2)(3)それぞれにおける総まとめを目ざす。 (1)アイヌの歌の旋律構造の分析:アイヌ伝統音楽の音楽的特徴の解明に向けた研究のまとめとして、これまで手掛けてきた各ジャンルの旋律分析をとおした考察(語りの音楽から神謡の旋律構造、形式的に神謡と共通点のある子守歌の旋律分類等、複数で歌う曲目の多声性に関しての、叙情歌の旋律と詞句の関係など)を進める。また、アイヌ伝統音楽の伝承・復興に従事する人びとへの本研究成果の還元や、一般へのアイヌ文化普及の一環として本研究成果を分かりやすく提供するため、所属機関での普及行事としてレクチャー&コンサートを実施する。これには、アイヌ音楽の演奏家と、コンサートに必要な音響を実現するための音響監督とを招聘する予定である。 (2)アイヌ音楽及び関連する北方諸民族の芸能に関する情報収集:文献や音声資料等の情報は恒常的に蓄積しているが、引き続きその公開・共有に向けた情報整理を進める。アイヌ音楽に関してはこれまでに、公刊されたレコード盤のリスト、アイヌ音楽研究に関する文献リストを編集し公表しているが、それらのその後の情報補填にも努めることとする。また、2019~20年にかけて本研究の一環として収集した、アイヌや北方の諸民族の伝統楽器に関する情報を、所属機関でのテーマ展示(「楽器 見る・知る・考える」)に反映させる予定(この展示は2020年に実施する予定であったがコロナ禍のため中止した)。 (3)北方諸民族の芸能を記録した音声映像資料の調査等:前年度に引き続き、北方諸民族の芸能調査を行った故・谷本一之氏の研究資料の情報整理を進め、一定の区切りをつける。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度当初は、前年度に引き続いてデータ入力等をおこなうアルバイト員の雇用を予定していた(楽譜の入力ソフトも使うため、依頼できる相手が限られる)が、依頼が可能な時期の調整が叶わず断念したことで、余剰が生じた。また、資料整理の打ち合わせのための旅費(大阪府)を予定していたが、これは別途私費で滞在した機会を利用したことで、余剰が生じた。 次年度(最終年度)の計画の一つに、研究成果の提供と普及のためのレクチャーコンサートを予定するので、余剰分は演奏家の招聘等に充てる予定。また、北方諸民族の芸能の情報整理を日常業務の中でより効率よく進めるため、パソコン周辺機器等の更新や補充にも充てる予定。
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