研究課題/領域番号 |
18K01187
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
大杉 高司 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (10298747)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エクアドル / ヤスニITTイニシアチブ / 地球温暖化 / 排出権取引 / 贈与 / フェティシズム |
研究実績の概要 |
本研究は、持続可能性の現況把握を目的とした経済、社会、自然環境の計量が、どのような活動を伴いながら特定の現実を形づくっていくのかを、アンデス地域の具体的事例にもとづいて解明することを目的としている。本年度は特に、エクアドル国のヤスニ国立公園に埋蔵する原油を採掘せずに地中に留めることで地球温暖化抑止に貢献しようとするヤスニITTイニシアチブ(2007~)に着目し、政治生態学、生態経済学などによる先行研究をふまえて、人類学の立場から独自の分析を試みた。イニシアチブは国際社会からの経済的見返りを求める枠組みとして提起されたが、そのことが「原油を採掘しないこと」の価値を数量化する多種多様な価値計量を導きだしてきた。ところが、国際社会からの寄与は政府提案の目標額に達せず、国内的にも継続をめぐって係争中である。研究代表者は人類学の立場から、とくに贈与論とフェティシズム論を援用しつつイニシアチブをめぐる論点を整理しなおし、ポスト石油体制を先取りする革新的提案としてのその潜在的な可能性を分析した。その成果にもとづき、平成31年2月17日から3月29日に実施したエクアドル国での研究滞在では、アンディナ・シモン・ボリバル大学院大学(キト市)およびクエンカ大学(クエンカ市)で招待講演し、現地の生態経済学者、政治生態学者、環境学者などから有益なフィードバックを得ることになった。滞在中、大統領の命でイニシアチブの素案作成にあたった政治家、イニシアチブに対する多基準評価を実施した経済学者、国連開発計画との交渉にあたった当事者にインタビューを実施したほか、本イニシアチブをきっかけに組織されたNGOで参与観察を実施し、今後の具体的調査・研究項目の選定のための情報を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は当初、エクアドル、ボリビア、コロンビアでの持続可能性計測の比較を意図したものであったが、交付金額が申請金額を大きく割り込んだため上記三国にそれぞれ滞在して研究を実施することは断念せざるをえず、際立った取り組みをしているエクアドル国を戦略的に選定し、優先的に研究にあたることとした。さらに、研究代表者はエクアドル国での調査が初めてであることから、平成30年度は、持続可能性計測のうち内外の高い関心を集めてきたヤスニITTイニシアチブをめぐって実施されてきた計測に対象を限定して取り組んだ。あらかじめ準備した独自の分析を携えて研究機関を訪問し、講演の機会を得、今後の研究のための研究連携関係を形成したほか、持続可能性計測にあたった生態経済学者、政治生態学者との意見交換、国連開発計画との交渉にあたった政府関係者のインタビュー、ヤスニITTイニシアチブをきっかけとして組織された全国レベルのNGOで参与観察も実施することができ、今後の研究の基盤形成に成功した。以上から、本研究はこれまでのところおおむね順調に進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に実施したヤスニITTイニシアチブをめぐっては、自然科学者(生態学者、環境学者)との情報交換・研究連携の模索、経済計画省、環境省などの公文書館での調査が不充分ないし未着手であり、これらについて継続して実施する。また、ヤスニITTイニシアチブを、エクアドルにおけるより広い持続可能性計測の取り組みのうちに位置付けることを試みる。 他方、これまでの調査で明らかになりつつある事項として、持続可能性計測手法や単位を異にする計量結果の総合手法が、地理的隣接性とは関連しない国際的ネットワークを介して流通していること、しかもたとえば生態経済学の思考を共有する研究者、研究機関等のネットワークと、各種企業による持続可能性報告書の作成とトレンドセッティングとの関連するネットワークのあり方が大きく異なるなど、持続可能性計測をめぐる複数のネットワークが濃淡をもって不均一かつ多様に拡がってることがあげられる。こうした様相のより正確な実態把握および複数のネットワークの競合や対立関係の分析に、文献参照関係の調査、組織的連携の在り方の調査、ネットワークのハブとなる国際組織や企業でのインタビューや参与観察を通じて取り組む。
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