「持続可能性」の彫琢：エクアドル、ボリビア、コロンビアの比較研究

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 18K01187
• 研究機関: 一橋大学
• 研究代表者: 大杉 高司 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (10298747)
• 研究期間 (年度): 2018-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: 人類学 / エクアドル / ヤスニITTイニシアチブ / 地球温暖化 / 排出権取引 / 贈与 / フェティシズム

研究実績の概要

本研究は、持続可能性の現況把握を目的とした経済、社会、自然環境の計量が、どのような活動を伴いながら特定の現実を彫琢していくのかを、アンデス地域の具体的事例にもとづいて解明することを目的としてきた。2021年度は、コロナ禍の継続により本研究の根幹となる実地調査を当該地域にて実施することができなかった。一方、2018年度来注目してきたエクアドル国のヤスニITT（ITT地域における原油を採掘しないことに対する代償要求の政治経済的枠組み）については、現地のマスメディアや推進派NGO、抵抗派団体、現地アカデミアにおける経済学および生態学分野の論争を、文献資料や電子資料を通じて継続的に追跡して情報と分析のアップデートに努め、次回調査に備えている。また、2020年度に着手した比較研究では、同じくアンデス地域のボリビアとコロンビアの情勢を追うと同時に、南アジア、北米、ヨーロッパにおける自然の権利の展開とそれを支えるグローバルなネットワークの分析、さらに炭素排出権取引の政治生態学および地政学的な分析を進め、ヤスニITTをよりマクロな展開に位置づけすることを試みてきた。他方ミクロには、アンデス地域における自然の権利やそれにもとづく政治経済的要求の動きがアマゾンやアンデスの先住民コズモロジーを援用していることに着目し、先住民の環境との関わり合いのあり方が都市部の知識人層の運動や国家政策にどのように翻訳・改変されていくのかを、この十数年来人類学において議論されてきた存在論政治の観点などから分析を進めてきた。

現在までの達成度 (区分)

4: 遅れている

理由

2021年度も、2019年度来延期してきたアンデス地域での実地調査を実施することができなかったため、予定よりも研究の進展は大幅に遅延していると言わざるをえない。しかしながら、次回調査にて遅れを取り戻し、研究を一層実りあるものとするために、上記のようにヤスニITTをとりまく多層的な展開をマクロとミクロの双方からアプローチし、準備態勢を整えている。

今後の研究の推進方策

ヤスニITTイニシアチブおよび比較可能なプロジェクトについて、新型コロナウィルスの世界的感染拡大が落ち着きをみせ、エクアドルをはじめとするアンデス地域の受け入れ態勢が整い次第、改めて現地調査を実施する。とくに、自然科学者（生態学者、環境学者）との情報交換・研究連携、経済計画省、環境省などの公文書館での調査が不充分ないし未着手であるため、これらについて実施する。当該地にて現地調査がひきつづき実施困難な場合には、日本にて資料収取と文献調査を一層推進し、生態経済学や環境経済学などによる持続可能性計測と、生態学や地球システム科学による持続可能性計測の比較検討、法学における自然権の法理の枠組みとの整合などについて考察をこれまで以上に深め、その成果を学会発表と論文として刊行する。

次年度使用額が生じた理由

2021年度は、新型コロナ感染症感染拡大にともなう渡航制限により、本研究の中核をなし支出費目の大部分を占める、海外実地調査を実施することができなかった。そのため、2022年度へ研究期間の延長を認められた。次年度使用額は、感染症の世界的拡大が落ち着き次第、エクアドルをはじめとする海外調査、米国での学会発表出張費として使用することを計画している。実施時期は、感染症の今後の状況が読めないため確定できないものの、6月から3月までのいずれかの時期を念頭においている。