研究課題/領域番号 |
18K01192
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
吉岡 政徳 神戸大学, 国際文化学研究科, 名誉教授 (40128583)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 先住民運動 / 土着 / 伝統 / indigenous movement / 伝統経済の自立 |
研究実績の概要 |
本年度は、8月から9月にかけてヴァヌアツ共和国を訪れ、トゥラガ・ネイション運動の本拠地であるペンテコスト島北部の東海岸にあるラヴァトマンゲム村でフィールドワークを実施した。首都で情報収集をした中で、運動の活動は一時休止していることがわかったが、運動のリーダーであるヴィラレオ氏の親族が現在トゥラガ・ネイションを管理しており、その人物にいろいろと話を聞くことができた。 トゥラガ・ネイションは伝統復帰を主張して、欧文のアルファベットとは異なる独自の文字を作り、伝統を教える学校を設立している。また、伝統的な手続きによって選出された伝統的リーダーたちによる議会の設立を主張し、先住民議会運動を展開している。さらに、伝統経済の自立を主張して、市場経済の原理で動く法貨(ヴァツ通貨)ではなく、伝統経済で流通してきた伝統的財を管理し流通させる銀行を設立してきた。ペンテコスト島における伝統的財とは、豚とパンダナス製のマットであり、ラヴァトマンゲム村にはヴァヌアツ全土に14の支店を持つ通称「豚の銀行」の本店が設置されているのである。トゥラガ・ネイションによれば、ヴァヌアツのたった20%の人々しか市場経済の恩恵を受けておらず、残りの80%の人々は、依然として、伝統経済のなかで生活しているという。こうした人々の生活基盤を整え、ヴァヌアツにおける伝統経済の自立を目指していくという。今回のフィールドワークなどの調査によって、こうした運動の実態をつかむことができた。 これらの成果は、8月に「トゥラガ・ネイション(その1)-ヴァヌアツにおける伝統復興運動」として出版される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り、ヴァヌアツのペンテコスト島のラヴァトマンゲム村で調査することが出来た。運動が一時中断しているという問題はあったが、村を管理しているリーダーの親族と会うことができたので、様々な情報を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のキーワードは「伝統」である。メラネシアで話されているピジン語では、カストムという。1980年から1990年にかけて、人類学ではこの伝統概念を巡って「カストム論」と呼ばれる議論が活発に展開された歴史を持つが、そこで展開された議論は、独立運動のリーダーたちのイメージしたカストム観であった。しかし、その後、エリートではない普通の人々の持つカストム観を考える必要性を訴える議論が登場し、議論は一時棚上げ状態であるかのような様相を呈している。ところで、本研究で問題となっている運動は、普通の人々のカストム観を反映し、独立運動がもたらした伝統の衰退という現実への反発であるといえる。しかし、豚の銀行に見られるように、近代的な原理を分かったうえでのカストム復興運動なのである。それゆえ、伝統復興運動に見られる独自のカストム観の探索が今後のポイントとなる。そしてそれは、人類学における新しいカストム論への布石となると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末にまとめて東京で研究打合せをする予定だったが、新型コロナ問題で取りやめたため、次年度使用にすることにした。次年度は、研究打合せを複数回開催して、研究の深化を図る予定である。
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