最終年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で調査が行えなかった県内事例の聞き取り調査・観察調査(小松島市立江の祇園囃子等)を実施するとともに、これまでの調査のデータを整理し、分析を行った。 これまでの調査と文献研究の結果、地域と学校の連携(伝承)のパターンには、学校と地域の保存団体が連携して伝承を行っているタイプ(連携型)、学校と地域の保存団体がそれぞれ分かれて民俗芸能を伝承しているタイプ(分離型)、学校のみで伝承しているタイプ(学校単独型)の3タイプがあることが明らかになった。これらのタイプを規定する要因(学校伝承のあり方の違いを規定する要因)としては、地域(保存会)主体で民俗芸能を伝承していく余力がどの程度あるか、学校側が、カリキュラムや時間の制約の中で、民俗芸能をどのような形で教育現場の中に位置づけ、受け入れる判断をするか、地域と学校をつなぐキーパーソンが存在するかどうかが大きな影響を与えることが明らかになった。当初、連携型で行われていた伝承が、後に分離型ないしは学校単独型に移行する事例も見られるが、こうした変化についても、主に上記の3要因との関連で理解することが可能である。 民俗芸能の学校伝承では、地域(保存会)の民俗芸能伝承に対する思いと、学校がこうした地域の思いを受け止めつつ、何を目的としてどのような形で民俗芸能を受け入れるかという課題が交錯する中で、地域側はどのような資源を提供できるか、民俗芸能の「改変」をどこまで許容できるか、学校側は時間の制約の中でどの程度まで地域の要求を受け入れられるかといった互いの条件をキーパーソン中心に擦り合わせ、各現場の状況に適合した、持続可能な民俗芸能の伝承の形を模索しているのである。
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