研究課題/領域番号 |
18K01195
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研究機関 | 高知県立大学 |
研究代表者 |
飯高 伸五 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (10612567)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 文化人類学 / 歴史認識 / 戦跡 / 観光 / パラオ / グアム / ペリリュー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近代戦争の戦跡を訪問する営為(戦跡観光)において、ホスト/ゲストの二項対立には収まりきらない多様な行為者が社会的環境といかに交渉をおこない、アイデンティティや歴史認識を構築していくのかを民族誌的に検討することにあった。事例研究の対象として、太平洋戦争の戦場となったミクロネシア地域、特にパラオ諸島とマリアナ諸島を設定している。研究2年目の2019年度は、太平洋戦争の激戦地のひとつであるパラオ共和国ペリリュー島における現地調査、特に戦闘終結75周年記念をめぐる動向調査および戦跡観光の実態調査を行った。 2019年9月に実施したペリリュー島での現地調査では、現地人経営の観光会社主催のツアーに参加し、戦後生まれの現地人ガイドのツアーの特徴について、ゲストとの交渉のあり方などに注目し、ミクロな視座からデータ収集をおこなった。その結果、1)ペリリュー人の戦争体験が随所で説明され、臨場感があること、2)軍事史的な観点でガイドがなされるが、日本資本の観光会社でみられる慰霊の要素はあまり強調されないこと、3)言語の問題もあり、日本人観光客に対する現地人ガイドの需要が限定的なこと、4)対照的にアメリカ人観光客とはツアーの現場で歴史認識共有に向けた交渉がみられることなどがあきらかになった。 2019年9月15日は米軍上陸から75年の節目であったが、これまで節目の年に実施されてきた式典は記念日の15日には行われず、9月末から10月初旬にかけて実施されたパラオ共和国独立25周年記念の行事に組み込まれて実施された。これは、太平洋戦争の記憶が戦争当事国である日米に加えて、パラオ共和国にとっても重要な意味を持っていることを示す。これを受けて、パラオ共和国コロールにて、独立年がペリリュー戦終結50周年でもあったことを念頭において資料収集を行い、国家形成と戦争の記憶について精査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、戦跡観光の現場において近代国家の戦争の記憶を背負うような従属主体の形成や、国家の観点には収まらないようなエイジェンシーの可能性に注目している。研究目的を達成するためには、必ず現地調査が必要になるが、研究1年目、2年目ともに現地で基礎資料の収集ができている。特に研究2年目には、パラオ共和国ペリリュー島にて、日米の観点に収まらないペリリュー人の観点を現地人ツアーガイドの実態から一部把握できたこと、戦跡観光の現場においてガイドとゲストとの間でなされる歴史認識をめぐる交渉について実態把握ができたことなどから、当初目的に沿ってミクロなレベルからのデータ収集ができている。また、現地調査の過程で見出した問題意識に基づいて、文書史料の収集なども行うことができた。以上から、これまでのところ、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施3年目は前半にパラオでの現地調査、後半に成果発表を行う研究計画を立てていた。パラオでの現地調査は、戦前パラオに住んでいた沖縄出身の元移住者による現地慰霊祭の実態調査、日米の退役軍人や遺族と懇意だったパラオ人に対する聞き取り調査を念頭に置いて計画を立てていた。しかし、新型コロナウィルス流行の影響で渡航がかなわない可能性も出てきた。現地調査の時期を年度後半に変更するか、現地調査ができない場合は、1960年代から現代まで実施されてきた現地慰霊祭に関する報告書などを国内で渉猟し、文献研究に切り替える。また、既に1年目、2年目にパラオおよびグアムで収集した現地調査のデータを整理しながら、補足的な聞き取りを電子メール等で調査協力者に実施するとともに、研究発表および論文投稿などの成果発表に重点を置いて研究を実施する。以上の対応により、現地調査ができなくても当初の研究目的を達成できるようにする。
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