本研究では、太平洋戦争の戦跡を訪問する営為(戦跡観光)において、ホスト/ゲストの二項対立には収まりきらない多様な行為者が、いかにアイデンティティや歴史認識を構築していくのかを民族誌的に検討している。事例研究の舞台として、太平洋戦争の激戦地であったミクロネシア地域のパラオ諸島とマリアナ諸島を設定した。研究最終年度にあたる3年目は、初年度に行ったグアムでの現地調査および二年目に実施したパラオ共和国ペリリュー州での現地調査のデータを整理・分析し、成果発表を中心に研究活動を行った。 調査データの分析に際しては、観光客、退役軍人、遺族、現役米兵、遺骨収集団、現地ツアーガイド、郷土史家、歴史保存の実務家、映像作家といった多様な行為者が、戦跡を訪問する営為に対して付与している意味が、いかなる相互関係にあるのか、戦跡観光の現場におけるかれらの出会いに注目して分析した。同時に、2019年に実施された戦闘終結75周年の諸イベントと、当該地域における同時期の文化事業や国家イベント(グアム博物館のリニューアル、パラオ共和国独立25周年記念祭など)との連関を念頭に置いて国内で文献研究を行い、太平洋戦争の記憶の動態を歴史的および地域的文脈なかで分析した。 以上を踏まえて、オンラインでの国際学会Royal Anthropological Institute 2020および国際シンポジウムContesting Memorial Spaces in the Asia-Pacific (Kyushu University Border Studies)に参加し、研究発表を行った。
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