研究課題/領域番号 |
18K01199
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研究機関 | 駒沢女子大学 |
研究代表者 |
牧野 冬生 駒沢女子大学, その他部局等, 準研究員 (50434387)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 墨米移民 / 創造的伝統 / 創作的伝統 / 伝統の継承 / メキシカン・コミュニティ |
研究実績の概要 |
本研究の初年度にあたる2018年度の研究実績は、以下の通りである。 2018年度は9月に、メキシコ南部のオアハカ州、首都のメキシコシティー、北部のヌエボ・レオン州モンテレイ周辺の地方都市でフィールドワークを実施した。複数の都市における綿密なフィールドワークよって、3つの問題系における論点を再整理し、研究課題における問題点を抽出した。具体的には以下の通りである。 1)米国在住移民の複数世代間における「伝統の継承」と米国における想像的伝統の変容においては、複数家族へのインタビュー調査を実施し、「いつ・どういう立場で移民したか」によって変化する伝統継承の差異を中心に把握するように努めた。2)継承された伝統の発露としての墨コミュニティにおける文化実践と居住空間の構築においては、複数の家に住み込むことによって伝統性が継承される空間的特徴の把握を行った。参与観察により、ライフヒストリーによって異なる空間性が重層する現状を把握できた。 本研究では、伝統的儀礼が米国社会へ引き起こす社会的・物理的な空間変容に対して、墨米移民や故郷の住民がアクターとしてどのように作用しているのか把握し、文化実践のプロセスを明らかにすることにある。初年度のフィールドワークは、メキシコ地方都市の伝統的景観とその変化を再確認できた。またインタビュー調査は、「米国における墨コミュニティの比較」と「共創的社会景観の提示」を推進していくための一次資料の形成につなげることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度の各課題における進捗状況は、以下の通りである。 1)米国在住移民の複数世代間における「伝統の継承」と、米国における想像的伝統の変容については、複数の地方都市(モンテレイ・オアハカ)及びメキシコシティでフィールドワークを実施し、伝統の継承について世代間の差異を把握することができた。また、移民の目的、手段、期間、故郷との関係性によって異なる「伝統への意識」と「伝統継承への意識の違い」についても重要な課題として認識することができた。 2)継承された伝統の発露としての墨コミュニティにおける文化実践と居住空間の構築については、カリフォルニアにおけるメキシコ系アメリカ人(墨米移民2世)の文化実践と居住空間についてインタビュー調査をすることができた。そこでは、かつて一定の地域集団として居住していた移民1世と異なり、2世が新たに米国内で家族を形成する中で、新たな伝統観に基づく居住環境(住居、周辺環境)が形成されている状況について把握することができた。 3)メキシコ地方都市の伝統的景観と米国の墨コミュニティの比較と共創的社会景観の提示については、本研究で提唱する「共創的社会景観」の理論化のために必要な資料を収集し、今後のフィールドワークの内容について整理した。また、個別の住宅ではなく「景観」として一定の地域をまとめて見ていく視点は、人文地理学・都市計画的な要素を含んでいる。複数の分野からも再検討する必要があるため、文理を超えたインターディシプリナリーな視点の導入に努めた。
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今後の研究の推進方策 |
研究の2年目にあたる2019年度に向けては、2018年度の研究成果と抽出した課題を整理した上で、米国とメキシコの両方でフィールドワークを実施することを予定している。また、2019年度は米国応用人類学会(SfAA: Society for Applied Anthropology)で研究成果の公表を行い、批判的な考察の場を設ける。 本年度のフィールドワークにおいては、米国内のメキシカン・コミュニティを訪問し、社会生活に埋め込まれた米国における文化実践のプロセスに着目する。またメキシコにおいては、近年見られる重要な変化として、米国のメキシカン・コミュニティへ故郷の伝統社会から住民が訪問する新たな観光(リバース観光)も重要な要素であり注視していく。その上で、「共創的社会景観」の理論化へ結びつけるナラティブな一次資料(インタビュー調査)と文献資料を収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)旅費に関しては2月に予定していたフィールドワークについては、フェスティバルの日程と現地でのインフォーマントの予定が合わずに次年度へと持ち越しとなったことが理由である。また謝金に関しても同様に、現地での共同研究者への支払いがなくなったため、次年度使用額が生じた。 (使用計画)翌年度の使用計画としては、米国とメキシコの両方でフィールドワークを実施することを予定しているため、主に旅費と現地研究者への謝金を想定している。
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