研究課題/領域番号 |
18K01199
|
研究機関 | 駒沢女子大学 |
研究代表者 |
牧野 冬生 駒沢女子大学, その他部局等, 準研究員 (50434387)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 墨米移民 / 想像的伝統 / 創作的伝統 / 伝統の継承 / メキシカン・コミュニティ |
研究実績の概要 |
本研究の2年目にあたる2019年度における研究実績は、以下の通りである。 2019年度は、8月に墨米移民の移民状況を踏まえながらフィールドワークを実施した。墨米移民が米国に行くルートは複数存在する。移民の中には地方都市から直接行く場合もあるが、メキシコシティで一時的な出稼ぎを行う場合も多い。こうした移民の渡米ルートも再調査しながら3つの問題系における論点を整理し、研究課題を遂行した。具体的には以下の通りである。 1)「米国在住移民の複数世代間における「伝統の継承」と米国における想像的伝統の変容」においては、メキシコシティーに居住する複数世帯、単身世帯へのインタビュー調査を実施することができた。調査では、異なる世代間により伝統継承の差異がどのように発生するのか把握するように努めた。2)「継承された伝統の発露としての墨コミュニティにおける文化実践と居住空間の構築」においては、実際の移民家族の居住スペースおよび社会空間を把握することで、伝統の発露の場としての空間的特徴を把握した。3)「メキシコ地方都市の伝統的景観と米国の墨コミュニティの比較と共創的社会景観の提示」については、上記のフィールドワークの成果を精査することで、理論化の一次資料を蓄積することができた。 本研究では、カトリックを軸とした宗教的な伝統儀礼が米国の社会空間を変容させている現状に対して、墨米移民と故郷の住民の両者の役割を把握しながら、米国メキシカン・コミュニティの居住空間と社会空間に創出される「共創的社会景観」を提示することにある。本年度のフィールドワークは、こうした最終の研究成果を意識しながら墨米移民の世代間の差異を含めて調査ができた。最終年度に向けて十分な資料形成につなげることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の各課題における進捗状況は、以下の通りである。 1)「米国在住移民の複数世代間における「伝統の継承」と米国における想像的伝統の変容」においては、墨米移民(不法移民を含む)の内、米国生まれの次世代と16歳までにアメリカに来た不法移民の子供に着目することが重要であった。彼らは、「若年移民に対する国外強制退去の延期措置: Deferred Action for Childhood Arrivals、DACA)により米国滞在が合法であり、かつ自己のルーツ(故郷)探索を含むメキシコへの観光的帰郷の重要な担い手だからである。こうした点を踏まえて、複数世帯、単身世帯へのインタビュー調査を実施することができたことは重要であった。 2)「継承された伝統の発露としての墨コミュニティにおける文化実践と居住空間の構築」においては、米国社会で引き継がれた伝統の発露として、どのように創作的伝統が再構築され実践されているのか調査した。そこでは、伝統的なカトリックの儀礼はひとつの大きな伝統の発露である一方で、墨米移民の世代交代(2世から3ー4世へ)により宗教的な紐帯が衰退する現状も見てとれた。 3)「メキシコ地方都市の伝統的景観と米国の墨コミュニティの比較と共創的社会景観の提示」については、ある時期や時間により出現する一時的で仮説的な宗教儀礼空間や不可視的な社会空間を整理し、「共創的社会景観」の理論化に向けて資料を整理できた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究の3年目にあたる2020年度に向けては、2018-2019年度の調査結果と研究成果を整理した上で、米国移民の居住する米国(テキサス、カリフォルニア)とメキシコの両方でフィールドワークを実施することを予定している。 また、米国(テキサス、カリフォルニアだけでなく、計画書で予定していたニューヨーク、ボストンも含む)でのフィールドワークについては、現在コロナウイルスが蔓延している事情を踏まえて、事前情報を掴みながら十分に注意する必要がある。また2020年度の後半では米国応用人類学会(SfAA: Society for Applied Anthropology)で研究成果の公表を行うことで批判的な考察を行い、研究成果の深化を目指す。 フィールドワークにおいては、メキシコと米国内において墨米移民コミュニティを訪問する。墨米移民同士は、メキシコ国内に戻ってもお互いが一定のつながりを維持していることに留意する。また、米国におけるカトリック等の文化実践のプロセスと、メキシコにおけるカトリック行事の差異にも着目する。それは、米国に存在するメキシカン・コミュニティへ故郷の伝統社会から住民が訪問する新たな観光(リバース観光)とも繋がるものである。また継続して一時的で仮説的な儀礼空間、さらにSNS等の情報機器によって繋がる不可視的な社会空間も調査対象とする。その上で、「共創的社会景観」の理論化を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)旅費に関しては3月に予定していた米国応用人類学会(Society for Applied Anthropology)が、コロナウイルスの影響により急遽開催中止となったことが理由である。また謝金に関しても同様に、現地での共同研究者への支払いがなくなったため、次年度使用額が生じている。 (使用計画)使用計画としては、米国とメキシコの両方でフィールドワークを実施すること、及び米国応用人類学会での研究発表を予定しているため、主に旅費とフィールドワークに関する現地研究者への謝金を想定している。また、研究成果の公表に伴う翻訳校正の費用も必要となる。
|