本研究の最終年度にあたる2022年度の研究実績は、以下の通りである。 2022年度は、これまでの遠隔を含むインタビュー調査、文献調査に関わる研究成果をまとめ、米国メキシカン・コミュニティの居住空間と社会空間に創出される「共創的社会景観」の理論化に努めた。また、学術論文誌への投稿を行い、研究成果を広く公表した。具体的には以下の通りである。 本研究は、メキシコと米国を頻繁に往復する墨米移民独自の“旅的”居住観を通して、居住空間・社会空間の双方に「想像的伝統」と「創作的伝統」の具体的形成を促す、墨米移民の米国内の文化実践に着目するものであった。調査では、メキシコ地方都市で調査した結果を今回の成果と組み合わせ、米国に居住する墨米移民が抱えるメキシカン・アイデンティティの源泉としての想像的伝統が、伝統的社会(故郷)との頻繁な接触により変容しながら、米国でどのような文化的実践と現実空間として再構築されているか、その特徴を明らかにした。特徴としては、墨米間の移民に関する研究において、移民研究、文化人類学、建築学の視点を取り入れながら研究を実施した。 まとめとして、学術論文誌への投稿を行った。そこでは、墨米移民が構築してきた社会景観について、その分析の方向性として社会景観の4形態(持続的景観、定期的景観、一時的景観、動的景観)を示した。本研究により、米国内の移民受入政策が厳格化する中で、頻繁な故郷との往還を基軸にしていた墨米移民のトランスナショナルな文化実践の継続性を捉え、社会空間に表出した可視的な共創性を捉えることができた。
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