本研究は「テーマのある空間(Themed Space)」概念を用いて都市空間を考察する。研究期間を延長した五年目はメキシコでの調査を検討していたが、各国の感染症への対応が変更されてスペインへの入国制限が緩和されたので、9月にグラナダ、2月にサン・セバスチャンでフィールドワークを実施した。
これまでの研究から、米国ポートランドで数百のフードカートを調査した結果、料理のメニューを構成する名称や食材の組み合わせが文化的なまとまりを創出することが確認された。都市空間にはそのような文化的なまとまりが「テーマ」として解釈されるが、①特定の都市が持つ歴史的イメージがどのように影響するか、②複数のレストランやバルが密集する空間ではどのような状況がみられるかを問いとして設定した。
①についてスペインのコルドバ、②についてスペインのサン・セバスチャンでフィールドワークを実施した。①では中世の歴史的建造物が観光資源として利用されるエリアと、そこから離れた日用品の小売店が立ち並ぶ商業エリアを調査した。土産物などに多少の影響はみられたが、小売店やレストランの外観などには際立った特徴はなかった。入り組んだ街路、壁の材料や色彩などが空間の雰囲気を創出しているが、中世の世界観との結びつきは間接的である。日常生活で利用される商業エリアではスペインの他の都市と大きな違いはなく、公共交通機関などの表象も共通のものである。②では100店舗近いレストランやバルの外観やメニューを撮影し、名称に使用される文化的表象の分析ができるように資料を整理した。時間的制約から十分な分析はできていないが、バスク語が使用されることで特徴的な文化的表象が創出され、カジノやファーストフードなどの表象が混在することでより際立つことが確認された。
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