研究課題/領域番号 |
18K01211
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
原田 綾子 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (00547630)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 面会交流 |
研究実績の概要 |
本研究は、離婚後に別れて暮らすことになった親と子どものあいだで、子どもの利益にかなう面会交流の実現させるために、崩壊してしまった家族関係の再生をいかに支援すべきかについての新たな法的枠組み及び援助システムを提示することを目的とする。第二年度にあたる本年は、第一年度の文献調査結果を踏まえて、法システム(裁判所)と社会システム(家族支援のための諸機関や専門家)の機能および他機関との連携の在り方について、フィールドワーク調査を実施した。調査地は、名古屋、シドニー、ロサンゼルスである。2019年3月から4月にかけてシドニーで実施したフィールドワーク調査では、シドニーのFamily Relationship Centres、裁判官、リーガルエイド、弁護士等にインタビューを行い、面会交流紛争の実情や当事者のニーズ、サービスの内容、他機関との連携の状況などを把握した。FRCsについては実際の運用状況に加え、関係機関やサービス利用者による制度評価などの情報収集も行った。インタビュー録音は全部で10時間を超え、重要な情報が多く得られた。調査結果のレポートは日本語と英語の両方で作成し、日本語のレポートをもとに研究会や講演会で報告を行った。英語のレポートは調査協力者に送付し、フィードバックをいただいた。 ロサンゼルスにおける現地調査は2019年8月に実施予定だったが学内業務の都合などで困難となり、2020年3月に実施する計画であったところ、新型コロナの影響で断念した。以前に実施した現地調査の調査結果を改めて整理分析するとともに、インターネットなどを用いて最新の状況の把握に努めた。日本については、面会交流支援団体に、支援のニーズやサービス提供の現状について聞き取りなどを行った。家庭裁判所の実務の現状についての情報収集にも努めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカにおけるフィールド調査ができない状況であるのは残念であるが、今後、コロナウィルスの流行が落ち着いたら、実施したいと考えている。それまでは、日本でできる情報収集に注力したい。それに対して、オーストラリアについては、すでに十分なフィールド調査を行うことができており、その調査結果は、日本語だけではなく、英語でレポート文書を作成し、現地での協力者に共有してフィードバックを得ることもできた。調査報告の共有とフィードバックを通じて、本研究者が、現地の状況の多面的かつ正確な把握ができていることが確認できている。 日本においては、共同親権の導入に向けて議論が始まっているが、本研究は、共同親権を理念として強く打ち出すオーストラリアやアメリカにおいても、暴力や虐待など、共同親権が適切ではない事案の処理について工夫を積み重ねており、暴力被害者があきらめや泣き寝入りをせずに、安全な離婚後の家族関係を作っていけるような支援も並行して行われていることにも目配りをするものである。そうした観点からの情報把握と分析に従事する本研究は、暴力からの保護と親子の関係継続という、時に対立する二つの目標の間で、バランスの取れた親権法システムを構築していくための手掛かりを提供するものとなっている。本研究者の研究報告に対する日本の実務家や研究者の反応から、その手ごたえを十分に感じることができた。 上記の通り、研究の進捗は順調である。具体的成果としては、研究会での研究報告を2回実施している。さらに、家庭裁判所に招かれて、オーストラリアの養育紛争解決の仕組みについて招待講演も行っている。こうした研究発表の機会を通じて、比較法的、法社会学的視点から、日本の制度構築の手掛かりになる重要な知見を、研究者や実務家に対して提供することもできた。
|
今後の研究の推進方策 |
第三年度である2020年度は、新型コロナウィルスの影響が落ち着き、安全に渡航することが可能になったら、昨年度からの積み残し課題である、ロサンゼルスでのフィールド調査を実施したい。安全に渡航ができない、あるいは、諸般の事情を鑑みてそれが難しいと判断する場合は、渡航は断念し、日本でできる情報収集に注力することとしたい。 そして、第三年度の当初の予定通り、データ分析を通じた日本の制度改革の検討・その妥当性の検証を行う予定である。前年度までに実施した文献調査およびフィールドワークのデータを分析し、日本の制度改革にむけて具体的検討を行う。次の二つの問いに明確な解答を提示することが中核的課題となる。①アメリカやオーストラリアに倣い民法家族法の規定を「離婚後共同養育」の理念に基づいて改正すべきか。この「離婚後共同養育」の理念は、離婚後家族関係の基本理念として重要であるため、日本でもその法制化を目指すべきであると申請者は考えている。ただし、DVや児童虐待、精神疾患など、共同養育が子の利益に反する場合にも配慮した、バランスの取れた法規範を提案することをめざす。②子の利益となる面会交流の実現に向けて、法システムと社会システムの連携体制をどのように構築していくべきか。これは主にフィールドワークの成果を踏まえて議論を精緻化していく。 第三年度の終わりごろまでに、以上の検討成果をいったん整理し、論文を執筆する予定である。さらに、アメリカおよびオーストラリアの研究協力者やフィールドワーク先の実務家に対する口頭報告を実施し、分析結果を検証する。そのためにアメリカ・オーストラリアに出張を検討している。ただ、この渡航も、実現可能かどうか今の時点では見通せない。渡航困難な場合は、メールなどの方法で、フィードバックを求めることとしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ロサンゼルスへの渡航が新型コロナウィルスの影響で困難となったことが、最も大きな要因である。コロナウィルスの影響が落ち着いたら、2020年度中に渡航し、現地での調査を実施したいと考えている。
|