権威主義体制において憲法裁判所が一定の積極的な役割を果たしうる領域として、通常裁判所の実務に対する憲法裁判所の影響力の行使という問題が存在する。本年度は、以上の状況を、ロシアおよび中欧、とりわけハンガリー、ポーランドの憲法裁判所の動向をもとに検討し、その成果をモンゴル国立大学において行われた学会において英語で報告した。以上から、権威主義体制下のロシアにおいて、憲法裁判所が政治部門の利益を擁護するという役割を果たしつつも、法治国家の標準装置としての肯定的役割をも併せて実現することによって、自らのレゾンデートルを確保しようとするロシア憲法裁判の矛盾をある程度浮き彫りにすることができた。 また、以上の研究成果も踏まえつつ、この5年間で最終的に以下のような知見を得ることができた。まず、権威主義体制下のロシアに対する国際人権保障システムの影響力をヨーロッパ人権裁判所と関係に即して検討し、全体状況、ロシアが積極的に国際人権法を受け入れた領域(監督審)、ロシアが国際法人権法の受領を拒んだ領域(選挙権侵害)の三点に渡って分析することで、ロシアと欧州機関との関係を明らかにし、国際人権保障システムが権威主義体制下の憲法裁判所に及ぼしうる影響の可能性と限界とを明らかにした。 同時に、ロシアの立憲主義体制の変容を、「危機」という観点から分析し、総論的な議論とその具体化としてのコロナ対策のあり方とを検討することによって、ロシア立憲主義の課題と可能性を析出すると共に、憲法裁判の領域での対抗関係を、憲法アイデンティティ論および違憲審査基準論の観点から明らかにした。
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