研究課題/領域番号 |
18K01214
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
坂口 一成 大阪大学, 法学研究科, 准教授 (10507156)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 中国法 / 犯罪 / 損害賠償 / 民刑峻別 |
研究実績の概要 |
一般に日本においては、損害賠償の原因となった行為が犯罪と評価されようがされまいが、それは同じく不法行為であり、原因行為に対する評価を問わず、賠償が認められる費目に違いはなく、また財産的損害の賠償については、判決において不法行為者の資力は考慮されない。他方、中国では犯罪に基づく損害賠償は「刑事損害賠償」とされ、そうではない「民事損害賠償」よりも賠償費目が少なく、例えば精神的損害賠償は認められない。また残された財産的損害賠償についても、加害者の資力により減額される。このように刑事損害賠償を民事損害賠償とは異なって取り扱う、という中国の民事と刑事の関係は、日本の二元的な民刑分離論とは異なる。それでは両者はどのような関係・位置づけにあるのか。本研究の目的は、こうした中国の民刑関係を理論的・実証的・歴史的に具体的に解明することである。 初年度である2018年度は、まず理論的に中国の民刑関係論を検討するために、主に次の2点の作業を進めた。 ①文献調査 損害賠償という点では概ねに順調に進み、肯定説においても理論的な理由(例えば刑事損害賠償と民事損害賠償の異質性)と現実的な理由(加害者(被告人)は一般に資力がなく、判決しても「空手形」になる等)が錯綜している状況にあることが、また批判論も有力であることが分かった。このほか民刑関係を検討する新たな素材として、刑法上の[追○](○は激の偏がサンズイではなく糸偏)制度を発見した。 ②現地ヒアリング調査 2018年7月に中国政法大学(北京市海淀区)にて、刑事訴訟法・民事訴訟法の教授等から、本課題をめぐる実務・理論の状況についてヒアリングをした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度である今年度は、理論レベルの民刑関係を析出するために①文献調査を進めると同時に、②現地ヒアリング調査を進める計画であった。 ①文献調査 損害賠償という点では概ねに順調に進んだ。このほか民刑関係を検討する新たな素材として、刑法上の[追○](○は激の偏がサンズイではなく糸偏)制度を発見した。これは刑事法廷が職権でその占有を強制的に取得し(原物がないときは、価額納付を命じる)、被害者がいれば、それに還付するというものである。不法占有・処分による物質的損失については、附帯民事訴訟・単独の民事訴訟は認められず、これが独占している。 ②現地ヒアリング調査 2018年7月23日に中国政法大学(北京市海淀区)にて、紀格非教授等から本課題「中国の民事と刑事の関係の理論的・実証的・歴史的考察」をめぐる実務・理論の状況についてヒアリングをした。 ③今年度に得た知見は、坂口が担当する『現代中国法入門(第8版)』(有斐閣、2019年予定)の第9章に反映する予定である。 以上のうち、特に①後段および③から上記区分と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目に当たる2019年度は、実務レベルの民刑関係を析出するために、主に①裁判例研究を行う。また②現地ヒアリング調査を行う。その上で中間報告に向け、知見の整理を進める。 また、損害賠償のみならず、刑法上の[追○](○は激の偏がサンズイではなく糸偏)制度にも留意しつつ研究を進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
基金であることから必要に即して検討し、繰り越すことにした。次年度の物品費に組み込む。
|