民事(責任)と刑事(責任)の関係(以下「民刑関係」と略す)は1国の法システムの根幹をなす問題である。一般に日本では損害賠償の原因となった行為が犯罪であるか否かを問わず、それは同じく不法行為であり、同様に取り扱われる。また財産的損害の賠償については、判決において加害者の資力は考慮されない。他方、中国では犯罪に基づく損害賠償は「刑事損害賠償」とされ、そうではない「民事損害賠償」よりも賠償費目が少なく、例えば精神的損害賠償は認められない。また財産的損害賠償についても、加害者の資力により減額される。このように両者を別異に扱う中国の民刑関係は、日本の民刑峻別論とは異なる。本研究の目的は、こうした中国の民刑関係を理論的・実証的・歴史的に解明することである。 本研究はまず1年目において、主に文献調査を通じてその理論的関係を検討した。次いで2年目においては主に裁判例を素材としてその実態を検討した。これらの成果は『現代中国法入門(第8版)』(有斐閣、2019年)の第9章に反映するなどした。 そして最終年度の今年度は、まず前期において民刑関係の歴史的形成プロセスを解明するために、文献調査を進めた。対象とした文献は中華人民共和国建国(1949年)前のもの(特に清代)、および建国以降1970年末までのもの(特に50年代)である。これらの収集・読解を進めた。このほか、民法典が採択されたことから、関係する規範内容や学説の整理を行った。後期はこれまでの知見を整理統合した上で、犯罪に関する不法行為損害賠償の特殊性のあり方およびその存立構造に関する論文の執筆を進めた。また、2020年12月26日に中国刑法が改正された。比較的大きな改正と思われるため、その翻訳を進めた(阪大法学71巻1号(2021年)掲載予定)。
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