研究課題/領域番号 |
18K01217
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
安藤 馨 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (20431885)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 法哲学 / メタ倫理学 / フィクション説 / 法的言明 |
研究実績の概要 |
本年度は、規範的言明一般の意味論的問題の検討を継続し、また新たに近年の志向的態度対象論を検討した。前者については特に、フィクション説がそのほかの道徳的非実在論、とりわけ道徳的言明の意味論的内容が話者に応じて変動するという指標主義的な内容相対主義に対して、その意味論・語用論的な複雑性や錯誤説的コストといった点において、理論的に比較劣位にあることを指摘した論文が公刊された。後者について、本研究に関する限りでの志向的対象とその指示の問題の一端は、法的な(とりわけ事実認定的な)言明における名前が何を指示するかという点にある。特にフィクション説の場合には、そうした言明をフィクション説的に理解する場合に、そこに出現する名前が非フィクション的な指示対象を持つのか、それともあくまでフィクション的対象を指示するのかに問題がある。この点に関する本年度における検討の結果は概ね以下の通りである。法においては自然人も法人であり法によって構成された対象であるという(ケルゼン的な)見解に従うならば、法における名前は法人という(フィクション的な)対象を指示するということになるが、法の規範性を考えるならば、とりわけ裁判とその執行という国家行動の正当化根拠として法が用いられるということを考えるならば、フィクション的対象が云々の行為を行ったということが、同じ名前を有するだけの別の対象(非フィクション的対象)に対する実力行使を正当化するということになるだろう。しかし、殺人犯を演じた俳優が、演じられたフィクション的行為者が殺人を犯したという(フィクション内では確かに真な)ことから処罰される(ことが正当化される)とは考えられない。したがって、法的言明中に生ずる名前をフィクション説的に理解してはならないだろう。次年度の課題は名前以外をフィクション説的に理解しうるか、という問題である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に述べた通り、事実認定的な法的言明に関する有力な立場としてのフィクション説について、規範的談話一般の観点からの検討を一通り終え、本年度は特に法的言明に特有の問題の検討が行われたこととなる。これは昨年度の実施状況報告において今年度遂行することとして予定されていた作業に該当し、研究計画に沿って順調に推移しているということができよう。なお、研究結果について海外学会・ワークショップでの報告を3月に予定していたところ、新型コロナウィルスの世界的流行に伴う問題から、これを果たすことができなかった点は残念であった。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究を引き継ぎつつ、より事実認定的な法的言明に関するフィクション説に特化して研究を進めることになる。既に述べた通り、進捗に問題はなく、同様の方法で研究を行う。また2021年度以降には、フィクション説に代わる理論的選択肢の検討を行うことになる。本年度の結果から、法的言明に関するいわゆる「ごっこ make-believe」説的な理解が困難であることがわかったため、法的言明が「ということにして話をすすめたい desire to proceed as if」という態度を表出するものであるという、表出主義的方策を検討する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
3月に予定していた海外ワークショップでの研究報告が新型コロナウィルスの世界的流行に伴いキャンセルされたため。この分については、本年度に改めて海外での報告を予定しているため、それに使用する予定である。
|