研究課題/領域番号 |
18K01220
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
上田 理恵子 富山大学, 学術研究部教養教育学系, 教授 (00332859)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 公的代理業 / 弁護士 / 公証人 / 前段の司法 / オーストリア=ハンガリー / 法的サービス / 隣接法律専門職 |
研究実績の概要 |
本年度の主たる活動は、以下の三点である。 活動①:国際会議への参加・報告。ウィーン大学法学部(ウィーン、オーストリア共和国)にて9月25日(水)から27日(金)の期間に開催された中・東欧ヨーロッパ法制史会議(CEELHC)に参加・報告した。本研究実施者の報告「ライタ川以西地域における弁護士と非弁護士の間―司法省文書『代理制度、非弁護士 1848年から1917年』に基づいて」においては、はじめに本研究課題の契機をいただいた科研費プロジェクトの成果物(三阪佳弘編『「前段の司法」とその担い手をめぐる比較法史研究』大阪大学出版会、2019)について紹介し、法的サービスに従事する非法律家の役割に関する比較法史的・実証的研究の必要性を確認した。そのうえで、オーストリア=ハンガリー二重君主国時代における司法省文書を調査した結果、弁護士や公証人制度の定着をはかるため、政府は、類似する事務を扱う「公的代理業」を段階的に廃止していく方針だったこと、にもかかわらず個別具体的に特定した事務所の開設許可申請が長期にわたって続けられたこと、兵役案件のように「情報提供」に限定して容認する方針が中央官庁内でもみられたことを確認した。質疑応答では、用語として「非弁護士」の由来、住民登録の扱われ方等などの課題を得た。会議終了後に投稿した論稿は、2020年度刊行予定。 活動②ウィーンにおける資料収集:国立公文書館(ウィーン)では、19世紀後半から20世紀前半の地域別弁護士・公証人会台帳上の項目「非弁護士」に関わる文書群を調査し、本項目の対象とする範囲が広いことを確認した。 活動③ザルツブルクにおける資料収集。ザルツブルク州立文書館にて1860年代の公的代理業者に関わる文書、加えて1870年代の職業別年鑑を閲覧し、「代理業者」がこの地域で果たした役割を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の計画のうち、学会報告、欧文論文投稿(2020年度刊行予定)、オーストリアにおける国立・地方文書館における調査については実施することができた。このうち地方文書館については、今回の調査に関連して、別の地方文書館における追加調査の必要が生じている。 今年度の成果物として投稿予定の邦語論文は、翌年度への投稿に持ち越すこととなった。 さらに、ハンガリー側の事情については、学会報告時に現地研究者との交流の機会を得た後、オーストリア側との比較検討という方針を確認したが、後の調査や成果物の発表は次年度の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
上述した個別課題を可能な範囲で進めたい。具体的には、前年度までの史料分析結果を①査読雑誌、紀要等へ投稿、②オーストリア諸地域における追加調査、できれば③ハンガリー側の事情についても考察をまとめてみたい。 ②の補足説明として、2018年度の成果物の一つ拙稿「二重体制期オーストリア諸邦における自治体調停制度:利用者の立場から考える」(松本尚子編(2019)『法を使う/紛争文化』国際書院、141‐172頁)では、地域レベルの法的サービスの一形態として自治体選出の非法律家による調停制度を扱ったところ、拙稿に対する林真貴子氏のコメント(同書173-182頁)で、拙稿で扱った「自治体」という単位について、より明確にする必要があるというご指摘をいただいている。これに応えるために、複数の地方文書館における追加を予定している。 ただし、新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う海外渡航自粛中のため、②と③のための現地調査については、今後の状況に合わせる必要がある。現地研究者との交流については、現状ではオンラインの交流等の可能性を模索する。
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