研究課題/領域番号 |
18K01220
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
上田 理恵子 富山大学, 学術研究部教養教育学系, 教授 (00332859)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 法専門職 / 非弁活動 / オーストリア=ハンガリー / 司法制度 / 法的サービス / 前段の司法 / 自治体調停 |
研究実績の概要 |
本研究では,19世紀から20世紀初頭にかけての中・東欧地域における法的サービス需要充足について,(1)法実務の担い手としての法専門家と非専門家のあり方および(2)地域レベルでの紛争解決に関する当時の史料調査を行ってきた。 (1)について、旧ハプスブルク帝国,特にオーストリア=ハンガリー二重君主国(1867-1918年)の領域では、弁護士と公証人という代表的な法専門職の制度が整備されていく過程で、これと競合する各種の実務家たちが大きな障壁となった。領主の農地管理人や裁判所・官庁職員、弁護士や公証人見習、退役軍人等である。そのため、公証人制度の定着までに難航する状況が、Neschwara(1996)(2017)『公証人制度の歴史』に詳しい。 この地域の歴史についての従来の否定的な研究動向を見直す岩崎(2017)等、最近の研究動向の知見を活かし、本研究では、法的サービス需要充足という視点から、紛争解決あるいは行政作用の仲介者となった担い手の役割について解明を進める。 具体的な事例として本研究では、「公的代理業」についてオーストリア司法省文書の検討により、①営業許可申請者の出身層、②業務内容。③これらの職種に対する諸官庁や関係団体の対応から、この職種の展開過程の解明を目指している。現時点では、司法省史料の性格上、中央まで存在情報が挙げられた申請者の数は限定されるため、地方紙や地方文書館での史料調査の必要があると感じている。 (2)の研究目的も(1)と同じである。オーストリアでは一部の地域に近隣関係の最も身近な紛争に対応する自治体調停制度が存在する。Mayr(1985)ら複数の論稿からの指摘では、有効に機能していないにも関わらず、今日にいたるも廃止されない事情が説明されていない。そこで本研究では、(1)と同時期に試みられた制度整備の調査を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究実績概要(1)の公的代理業者に関する研究では、2019年9月の中・東欧法史会議での報告と議論から得られた成果を2020年度にまとめ、オーストリア学術協会発行誌(査読あり)に発表した。 研究実績概要(2)については、ウィーン市を中心に分析した成果が松本編『法を使う/紛争文化』所収論文として2019年11月に刊行された。 現地の複数の文書館とメールによるやりとりを重ね、さらなる史料の存在が明らかになった。しかし、新型コロナ感染拡大に伴う海外渡航制限を受けて2020年度は現地調査を断念せざるをえず、補助金期間を延長申請し、承認された。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度内に渡航が可能となった場合には、上記(1)の公的代理業者および「非弁活動」、(2)自治調停制度について、オーストリア国立文書館・ウィーン市立文書館で調査する予定である。 (1)について、ウィーンでは2019年度の調査時に、弁護士・公証人文書目録項目に「非弁活動」が存在することがわかった。文書群の調査により、これまで調査してきた司法省文書との関連を明らかにしたい。加えて、ザルツブルク州立文書館で調査した「公的代理業者」の事例に関わる補充調査と「代理業者」に関わる史料調査のため、シュタイアマルク州立文書館および図書館での調査を予定している。 (2)については、ウィーン市立文書館の登録簿に掲載された文書群の閲覧を予定している。 以上につき、一部は海外からの複写取り寄せが可能なものもあり、現在照会中である。渡航が難しい場合にはこの方法も取り入れつつ、公的代理業者の資格取得、営業状況および地域の身近な法的サービスの事例をできるかぎり詳細に提示しつつ論稿にまとめることが今後の到達目標となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大のため、海外への渡航が制限され、予定していた文書館・図書館等における資料収集等を断念せざるを得なかった。 2021年度までの期間延長申請が認められたこと、現地の文書館等との通信を重ねて、資料の一部は取り寄せられる見込みもできたため、制約のあるなかでも可能な限り調査を続行し、論文等に発表することで、今年度中には残額も消化される見込みである。
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