本年度の主たる活動は、以下の三点である。 活動①18世紀末から19世紀にかけての、オーストリアの宮廷代理業およびその後継職である公的代理業の役割について、史料分析をもとに明らかにする。これらの職業は、オーストリア公証人史の先行研究であるNeschwara(2015)においても、公証人制度の普及にあたって主要な競合相手と目されてきた。2021年度にはシュタイアーマルク州立文書館(グラーツ、オーストリア共和国)から「無資格代書人」に関わる18世紀後半の地方官庁への通達・回状集を取り寄せた。これと類似するオーストリア家門・宮廷・国家文書館(ウィーン、同国)およびザルツブルク州立文書館(ザルツブルク、同国)史料等とあわせて分析した結果、悪質な無資格業者対策として、宮廷代理業の役割が中央・地方の諸官庁から周知されようと尽力されていたこと、その後継職である公的代理業も含め、少なくとも19世紀半ばまでは地域の法的サービスに貢献していたことが明らかとなった。 活動②ザルツブルクの公的代理業者について得られた史料をもとに、開業資格試験について、同時代の主要法専門職(裁判官・弁護士・公証人)と比較して専門性の質を明らかにする。 以上の活動①と②の成果については、2022年5月末提出締切の論文を執筆中である。 活動③前段の司法の一類型である基礎自治体の調停制度についての報告をハプスブルク史研究会・東欧史研究会合同個別報告会(2021年10月)に実施した。2019年に論文で発表した内容が基礎となったが、フォアアルベルク州以外での同制度の廃止という最新情報をふまえ、歴史的意義を再考することが目的であった。これにより、君主国時代の20世紀初頭では、経済的弱者に対する福祉政策の一つとして位置づけられないかという指摘や、史料の検索方法について提言をいただいたため、成果の公表に向けて取組中である。
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