2018年度から2020年度までを予定していた本研究は、イギリスのEU脱退(Brexit)の大幅な遅れと2020年度以降のコロナ感染症の世界的流行により大きく阻まれた。そのため、2021年度まで研究期間の延長を申請し許可を得た。 最終年度は、前年度に引き続き、一方でBrexit関連の法動向を追った。 他方で、グローバル行政法の理論面にも取り組んだ。この面では、前年度の研究の結果、グローバル行政法の議論において曖昧に残され、法的に最も従来の法学に整合させにくいのは、越境的私的主体の公共目的での自主規制であると特定できていた。そこで2021年度は、地球温暖化防止目的の越境的私的自主規制を事例として、関係する私的自主規制団体の運営構造や成果を分析した。その際、前年度の研究成果を生かし、当該主体について、組織、手続、実体の各局面を整理し、各主体の運営や形成するルールに通底する法原則または特定の基本的法的価値がないかを確認する方法で分析をした。そのうえで、従来のグローバル行政法の公法的アプローチでの当該主体に対する法的規律を検討したが、むしろそれは不適切との結論をえた。なぜなら、国家の関与がない私的主体の公共目的の多種多様な自主規制を画一的な公法原則で規律することになり、民間の創意工夫を減殺する結果になるからである。そこで代案として、試論ながら、地球温暖化防止のような国際社会に明確な合意がある公共目的の実現のための越境的私的主体の自主規制については、各国政府との関係で、その主体が国際公共「事務管理」者(民法697条以下)と類推して構成でき、そのほうが、民間の多種多様な工夫を柔軟に国内公法とも接続でき、かつ、事務の性質において国際条約に示された公法的原則の遵守も要請できるため、画一的ではなく個々の事象ごとに異なる公法原則をも取り込むことができ、より妥当であるという結論をえた。
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