前近代中国刑罰法典の古典的完成形態として重視される唐律に比して、宋代の刑罰法典である勅は完成度の低い雑駁なものとして軽視されてきた。このような評価は、宋勅が断片的にしか伝存せず、その構造と内容の実証的な分析が不充分であることに起因する。 そこで本研究課題では、第一に南宋の法書『慶元条法事類』からの勅条の集成と校訂、第二に同書に重複・節略して収載された勅条の統合と原文の復原、第三に唐律を主要素とする北宋の法書『宋刑統』収載の律条・令式格勅条・起請条と復原勅条との対照を試みた。これらの試みを通じて、唐律と宋勅の関係についての再検討に基礎的な材料を提供することをめざしたのである。 この目的を達成するため、4年度を通じて9回の研究会を開催した。最終年度の令和3年度には1回の研究会を開催し、研究課題全体についての総括に加え、研究協力者の七野敏光(同志社大学非常勤講師)と中村正人(金沢大学教授)による個別研究成果報告を行うことができた。 本研究課題の中間的成果にもとづいて唐律と宋勅の関係を論じた「宋代以勅補律考:宋律勅合編序説」は、研究代表者の所属する関西学院大学法政学会の機関誌『法と政治』71巻1号に投稿し、すでに令和2年5月に刊行されている。最終年度には中間的成果に再検討を加え、上記第一の試みについて「慶元勅集成稿」、第二の試みについて「慶元勅復原稿」、第三の試みについて「宋刑統慶元勅合編稿」を作成し、これらを本研究課題の研究成果報告書『唐宋を中心とする前近代中国法の継承と発展に関する基礎的研究』に掲載して、令和4年3月に公表した。同研究成果報告書には、上記研究協力者2名の個別研究成果報告論文も収録した。 これらを総じていえば、本研究課題の目的は順調に達成されたといえる。今後の課題としては、宋代の非刑罰法典である令を『慶元条法事類』から集成し復原を試みることも想定している。
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