研究課題/領域番号 |
18K01233
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐々木 雅寿 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (90215731)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 勧告的意見 / 照会制度 / カナダ憲法 / 違憲審査制度 / 対話理論 |
研究実績の概要 |
1 カナダの照会制度 2019年度前半は、前年度に引き続き、照会制度に関係する法規定とその運用実態の検討を行い、その成果を、佐々木雅寿「カナダにおける違憲審査の参加手続」『北大法学論集』70巻5号(2020年1月)928頁~939頁で公表した。 2019年度の後半は、カナダ最高裁と政治部門との対話(相互作用)の有無等を明らかにし、照会制度の強い型・弱い型等の違憲審査の諸類型における位置づけと、照会制度と対話的違憲審査との関係について検討を行った。その結果、以下の点が明らかとなった。第1に、裁判所と立法府との憲法的対話にとって、照会制度が重要な手段となっている。特に、(a)以前の判決において裁判所が十分な事実に基づかずに人権憲章に関する判断をしたと政府が考える場合、また、(b)裁判所が当事者以外の他の利害関係者の利益を十分に考慮しないで人権憲章に関する判断をしたと政府が考える場合に、政府が裁判所の判断に対応する新たな法案を作成し、その法案について裁判所に照会する場合、さらには、(c)カナダ最高裁の違憲判断に対して、立法府が判決の内容と異なる対向的な法改正をし、それについて照会する場合は、政府から新たな事実に関する情報や議論を提示することは、裁判所との憲法的対話にとって有用とされる。第2に、カナダ最高裁が示す照会に対する判断は、法的に厳密にいうと「先例」ではないため、法的拘束力を有していないが、実際の運用では、カナダ最高裁の判断は他の先例と同様に扱われている。したがって、法的に厳密にいえば、照会制度は弱い型の違憲審査に分類されうるが、実際の運用面では、強い型の違憲審査に分類されうる。 2 勧告的意見の日本への導入可能性 2019年度には、勧告的意見の導入可能性を、当該制度の民主的正当性の問題と関連する最高裁と政治部門との対話(相互作用)の観点から検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 カナダの照会制度 2020年1月、佐々木雅寿「カナダにおける違憲審査の参加手続」『北大法学論集』70巻5号928頁~939頁を公表した。この論文では、カナダにおける通常の違憲審査手続における利害関係のある法務総裁や私人の参加手続と照会制度における同様の参加手続について検討を加えた。これにより、照会制度における利害関係者等の参加手続の特徴を比較的詳細に明らかにすることができた。 2 勧告的意見の日本への導入可能性 2019年4月、佐々木雅寿「衆議院『投票価値の較差』判例の転換点」『論究ジュリスト29号』(有斐閣)36頁~42頁を公表した。この論文では、衆議院の議員定数不均衡訴訟に関する一連の最高裁判決と関連する学説とを詳細に分析する作業を通して、最高裁の多数意見や個別意見が示した、事情判決、違憲確認判決、違憲状態判決等の判決手法と勧告的意見の機能との類似性等も検討した。
|
今後の研究の推進方策 |
1 カナダの照会制度 2020年度は、当初の研究計画に沿って、カナダで照会制度が成功している要因、改善すべき点等を解明する予定である。 2 勧告的意見の日本への導入可能性 2020年度は、当初の研究計画に沿って、憲法上許容され、日本の違憲審査の実態に適合的で、かつ、違憲審査の活性化に役立ち、憲法秩序を実効的に保障しうる勧告的意見の具体的内容を憲法政策の観点から提言する予定である。このために、カナダの照会制度の分析で得られた知見を、カナダ憲法に特有のものと、より普遍的な原理に基づいたものとを区別し、後者に関して日本への導入可能性を検討する予定である。特に、利害関係を持つ政府や地方公共団体、私人の参加手続を認める根拠と範囲に関しては、「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」4条等の既存の法規とその柔軟な運用可能性や、カナダでも用いられている訴訟参加手続や裁判所の友の活用等の可能性を探る予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の研究費に関しては、6,717円の残額が生じた。これは、経費の節減・効率的使用によって発生したものである。この残額は、2020年度はじめに、日本国憲法81条の解釈論に関連する最新の図書等を購入するために使用する。
|