研究課題/領域番号 |
18K01234
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
米田 雅宏 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (00377376)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 許可法制 / 原子炉規制法 / バックフィット命令 / 行政行為論 / 行政行為の存続効 / 継続的法律関係 / 投資保護 / ドイツにおける行政法改革 |
研究実績の概要 |
比較法研究の1年目は、ドイツにおける伝統的許可制度の特徴を確認するとともに、この制度が現代法の中でどのような課題に直面しているのかを明らかにすることを目標とした。 具体的には、19世紀末の公法学者・実務家の著作のほか、許可法制の雛形を形作っている営業法のコンメンタールや一般警察法のハンドブックの収集・分析を行いつつ、古典的行政法のドグマティカーたるO. Mayerが、事業者の特定の行為を許可留保付き予防的禁止という統一概念の下で類型化をしたことの意味、これに対してF. FleinerがO. Mayerの理解をさらに発展させ、事業者の行為類型に応じ免除留保付き抑止的禁止という独自の類型を立てたことの意味を、具体の実定法の構造に基づいて明らかにした。また同時に、我が国の許可制度の理解(とりわけ美濃部のそれ)が、O. Mayerが理論化した「警察許可」を、果たして、またどの程度継受しているのかについても検証した。この検討の過程において、美濃部は許可を受けた者の法的地位に関し、《許可後も公共の安寧秩序と適合することの要請》と《許可付与後の事業者の法的地位の安定の要請》との両立を「行政行為の取消(撤回)の制限」の問題として主題化しつつも、両者の要請を具体的にどのように両立させるかという問題について、十分な解答を示していないことが明らかになった。これにより、〝そもそも既に行政機関から適法に許可を受けていることが、許可付与後の事業者の状態を制限することとの関係において、果たして、またどのような法的意味を有するか〟という問題を、許可処分の法的効果との関連でさらに精緻に分析する必要性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①必要な資料について、順調に収集を継続することができていること、また②問題把握のための基本的な検討を一通り終え、今後の研究全体の方向性について確認するとともに、その成果の一部をまとめ、公表することもできたこと(拙稿「伝統的許可制度の現代的変容(上・下)―原子炉設置許可とバックフィット命令を素材にして」法律時報90巻7号80-85頁、8号 96-101頁(2018年))が、その理由である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、伝統的許可制度が持つ特徴が、連邦イミシオン防止法や水管理法、原子力法にかかるカルカー決定などを通じて徐々に変化し、新たな類型化と定義づけが求められていることを明らかにしたい。具体的には、集会法判決からカルカー決定に至る許可制度にかかる判例の分析を通じて、伝統的許可制度の特徴である〝拘束的許可請求権〟がどのように〝瑕疵なき裁量行使を求める請求権〟に変化していったのか、また営業法が連邦イミシオン防止法に改正される際、事業者に潜在的な義務(基本義務)が課され、許可を受けた事業者の存続保護が事業活動期間を通じて制限されることになったこと等の経緯について調査する予定である。主たる検討対象は、許可は「禁止された自由を回復する」という法効果の意味並びにそこから導かれる〝点的な〟法律関係と、事業者に対する許可付与後の存続保護との関係性にある。従って、初年度に引き続いて、関連法令のコンメンタールをはじめ各種判例・評釈を収集し分析を行いたい。また同時に、ドイツの現行の許可制度が、行政法改革やヨーロッパ法の影響を受け、総体として、①許可手続に申請者を「動員」(報告義務の賦課)することで国家と社会の密接な関係を形成し高度な利益調整をはかっていること、また②許可手続の迅速化、さらに③許可制度を柔軟に解することで、許可後の行為に注目し、変化した事実に対応することを指向していることも指摘されていることから、その実務的意義と行政法理論へのインパクトを検証すべく、タイミングを見て海外調査を実施することも考えている。
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