本来であれば前年度で研究計画が終了する予定であったが、今年度もまたコロナ禍による影響で、海外調査など当初予定していた計画を進めることはできなかった。しかし他方で、今年度は本課題の「行政行為の存続効」の研究を契機として、より一般的に「行政法の法的安定性」について調査・分析する視角を、法律時報雑誌の特集企画を通じて得ることができた。バックフィット命令の制度設計にも深くかかわる、行政行為の取消制限の可否は、行政行為によって形成された法律関係の安定性の要請の程度の問題であるところ、そもそも行政法上の法律関係の安定性ないし行政法そのものの安定性は、どのような理念並びに基準に基づき判定・制御されるのか、という視角である。不特定多数の関係者を規律し、利益調整することを担う行政法には、取消訴訟制度の仕組みに代表されるように、伝統的に、一度形成された行政上の法律関係を容易に廃止・変更することを許さない幾重もの安定化装置が用意されている。しかし現代では、法・事実状態の短期間での変化、利害関係の多様性・複雑性が顕著となるほか、さらに特別措置法や行政通則法が断続的に整備されるなど、行政法システムの随所で法的安定と不安定の緊張関係が表出し始めている。このような観点から「行政法の法的安定性」そのものを問う(マクロの)視角を得たことによって、これまで探求してきた「伝統的許可制度の現代的変容」の意義(法の脱実体化・法の手続化現象)を、より明確にすることができたと考えている。米田雅宏「行政法の法的安定性を検証する――問題状況の俯瞰」法律時報93巻8号(2021年)4頁以下は、その具体的成果の一部である。
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