研究課題/領域番号 |
18K01237
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
飯島 淳子 東北大学, 法学研究科, 教授 (00372285)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 行政法理論 / 資源 / 事業 |
研究実績の概要 |
行政改革や人口減少社会の名の下で、資源の有限性が明確に自覚されるようになった今日、物的資源や金銭的資源とは異なる対応を要する人的資源の限界という社会事象に対して、行政がどのように働きかけ、行政法がこれをどのように規律しているか、そして行政法理論は、いかなる枠組みを設定し、いかに課題を捉えるべきか。かかる「問い」に対し、本研究は、資源の有限性を法学的に考察すること、とりわけ行政法理論・地方自治法理論の見地から「事業としての行政」という考え方の可能性を追求することを目的とするものである。 今年度は、基礎理論を模索するために、比較法研究を遂行することに重点を置いた。具体的には、フランスにおける地方分権・地方自治のありよう、とりわけ近時におけるコミューン連合をめぐる改革の分析を行うとともに、より基本的に、行政と私人との関係を整序する手続法の法典化を取り上げ、その法的意味を検討した。 前者については、①現実の必要に迫られたプラグマティックな選択としてコミューン相互間の連携の方法が精緻化されてきたのに対し、近時は、連携の強制が押し進められていること、②コミューン連合の貫徹・合理化とメトロポールの強化、そしてこれらへの直接選挙制の導入という近時の改革は、コミューン連合の“自治体化”を図っていること、③このことは、実質的に基礎的自治体としての役割を果たしているコミューン連合の制度的正統性を確保するものであるが、翻って、コミューンの存在意義を根底から問い直すことになることを指摘した。 後者については、①フランス行政法の法典化にあたって採用された基本方針が、簡素化への志向によって貫かれていること、②簡素化は、公衆にとってのアクセス可能性ないし理解可能性を追求するものであって、この志向は(適法性よりも)法的安全を重視するという形で表れることもあることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、実証研究と制度分析を行うと同時に、学際的研究や比較法研究にも示唆を得ながら、研究目的の達成を目指すものであるが、今年度は、実証研究と制度分析を日常的に遂行しつつ、研究の大本となる基礎理論研究として、比較法研究に重点を置き、研究業績を公表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
資源の有限性が、どのように法的言語に翻訳されてきたかという課題設定の下、国や地方公共団体の審議会等への参加を通して経験した具体的事例をも取り上げ、現実の立法過程と行政過程から、実証研究と実定法制度の整理・分析を行う。 その際、行政改革においては、行政資源の有限性への切実な認識の下、適法性のみならず効率性をも基本的な価値とすることが自覚されたのに対し、今日の人口減少社会においては、人口が減ること自体の意味が問われ、公助のみならず市場や共助の機能の低下のなかで、いかにして持続可能なサービス提供を制度設計するかという関心事が正面に据えられていることにも留意する。全体像を把握することを試みた上で、全体の見取図のなかでの位置づけを意識しながら、国レベルと地方レベルのそれぞれにつき、典型的な法事象を取り上げ、この変容のありさまを実定法制度にてらして内在的・体系的に分析することを試みる。 具体的な素材として、国レベルについては地方制度調査会の審議過程を主たる対象とし、また、地方レベルについては仙台市の次期総合計画の策定過程を主たる対象とする。 なお、研究の遂行に当たって、審議会資料をはじめとする大量の資料を分析する必要があることから、研究補助として資料の整理を依頼することにしている。また、実証研究と制度研究を遂行する上で必要な知識を提供していただくべく、研究者や実務家を招聘することも予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、比較法研究に重点を置いたことから、海外出張の機会を設けることも検討していたが、研究、教育、学内・学外の行政活動等の事情により、十分な準備期間と出張期間をとることができず、海外出張を最終的に断念したため、予定以上の次年度使用額が生じた。 来年度は、海外出張の機会を設けることを引き続き検討しつつ、まずは、既に保持している大量の資料を整理するために研究補助を依頼し、合わせて、国内の実証研究と制度研究を遂行する上で必要な知識を提供していただくべく、研究者や実務家を招聘することも予定している。
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