研究課題/領域番号 |
18K01237
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
飯島 淳子 東北大学, 法学研究科, 教授 (00372285)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 行政法理論 / 資源 / 事業 |
研究実績の概要 |
行政改革や人口減少社会の名の下で、資源の有限性が明確に自覚されるようになった今日、物的資源や金銭的資源とは異なる対応を要する人的資源の限界という社会事象に対して、行政がどのように働きかけ、行政法がこれをどのように規律しているか、そして行政法理論は、いかなる枠組みを設定し、いかに課題を捉えるべきか。かかる「問い」に対し、本研究は、資源の有限性を法学的に考察すること、とりわけ行政法理論・地方自治法理論の見地から「事業としての行政」という考え方の可能性を追求することを目的とするものである。 今年度は、パンデミックをめぐる公共政策のありように関し、常に変化する現在進行形の社会事象・行政事象・法事象を現場に即して観察し、分析・検討を行った。とりわけ、現下の感染症対策と連続して地域政策を展開していこうとする動きに着目し、仙台市、宮城県をはじめとする地方公共団体の実践のありようを学んだ(例えば仙台市は、「感染症に強いまちづくり」を掲げて、新型コロナウイルス感染症緊急対策プラン(令和2 年6 月)、新型コロナウイルス感染症対応検証結果報告書(同年8 月)、新型コロナウイルス感染症対策プログラム(令和3年1 月)というサイクルを回している)。医学・疫学・公衆衛生学の専門家から専門知識の教示を得ながら、資源の有限性にまさに現実に直面している地方自治の観点から基礎理論を模索するとともに、危機的状況への対処のありようについて実務と理論の接合を試みた。 また、地域共生社会におけるソーシャルワークと法というテーマについて、地域を法はどのように位置付けているかという組織法的な観点と、法がソーシャルワークという作用をどのように規律するべきかという作用法的な観点の双方から、「地域住民」に着目しつつ法制度的考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、実証研究と制度分析を行うと同時に、比較法研究にも示唆を得ながら、研究目的の達成を目指すものであるが、今年度は、実証研究と制度分析を一定程度行うことができたものの、比較法研究を遂行することができなかった。 比較法研究は、新型コロナウイルス感染症の影響により、海外現地調査を行うことができない状況が続いているほか、本務校の学内行政業務に忙殺され、外国法文献の収集・講読も十分に行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
資源の有限性がどのように法的言語に翻訳されてきたかという課題設定の下、国や地方公共団体の審議会等への参加を通して得られた知見に加え、地方公共団体等へのヒアリングを通じて得られた実務上の知見を活かして、法制度的研究と基礎理論研究を相互に往復しながら遂行する。 まず、人口減少社会などの日常的な危機のみならず、新型コロナウイルス感染症によって急激に顕在化した危機において、多様化・複雑化している資源の有限性の問題を、行政法理論の見地から考察する。中長期的に、いかにして持続可能なサービス提供を制度設計するかという関心を失わずに、国レベルと地方レベルのそれぞれについて、また、国地方関係について、この危機のありさまを実定法制度にてらして内在的・体系的に分析することを試みる。 また、あらゆる分野において求められているデジタル化に関し、消費者法領域を例に取り上げつつ、生身の人間として生活する一人ひとりの消費者、および、いわゆる悪質事業者からグローバルなデジタルプラットフォーム事業者までを含む事業者との関係に対し、行政はいかなる役割を果たすべきか、果たしうるのかを検討することにしたい。デジタル化は、資源の有限性の観点にとって”武器”になりうると同時に”脅威”にもなりうる。急激に変化する社会事象のなかから法的に制御すべき対象を選り抜き、現行法制度の意義と限界を分析することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により、海外現地調査や国内出張が叶わなかったことに加え、本務校の学内行政等の事情により時間的制約が大きく、外国法文献を含む文献収集も十分に行うことができなかったため、予定以上の大幅な次年度使用額が生じた。 来年度以降、海外・国内出張の機会を設けることを引き続き検討しつつ、今年度の研究成果を活かし、現在の状況において可能な限りの研究を遂行していくことを予定している。
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