研究課題/領域番号 |
18K01240
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
阪口 正二郎 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60215621)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 表現の自由 / アメリカ・モデル / 絶対主義 / 範疇化 / 比例原則 / 利益衡量 / 二重の基準 / エホバの証人 |
研究実績の概要 |
2019年度は、本研究の基本的な視座である、表現の自由に関するアメリカ・モデルの実体的・方法論的特殊性について検討を加え、実体的な特殊性として、差別的表現や名誉毀損の領域において表現の自由をヨーロッパ以上に強く保障する傾向があり、方法論的な特殊性として、表現の自由と公益が対立する場合の裁判所による憲法判断に関して、ヨーロッパでは比例原則という形での利益衡量がなされるのに対して、アメリカではルールに基づく「範疇化」という形での利益衡量がなされていることを明らかにし、アメリカ・モデルの特殊性に関する従来の議論が、没歴史的で文化論的な説明にとどまっていることを具体的に論証する論文を公刊する形で研究を取りまとめた。 2020年度は、これを踏まえ、二つの方向で研究を行った。第一は、最近のアメリカにおいて、裁判所はヨーロッパ流の比例原則を用いた利益衡量をなすべきであるとの議論が展開されており、そうした議論の分析を行った。第二は、アメリカ・モデルの特殊性を歴史的に検証するために、ニューディール期から冷戦期を対象として、著名な学者と裁判官の表現の自由論の分析を行った。 2021年度は、これまでの研究の結果、アメリカ・モデルの特殊性について、①経済的自由から表現の自由に自由の主たる保護対象が、「二重の基準」論という、極端な形で変化したというアメリカ憲法理論に内在する理由と、②そうした過程においてアメリカはファシズムや共産主義といった「全体主義」国家との対立を余儀なくされたという外在的な理由の、双方が重大な影響を及ぼしているとの知見に至り、その分析を開始した。 2022年度は、2021年度の研究を踏まえて、第一次大戦期から冷戦期までのエホバの証人に関わる憲法問題を具体的な対象として、上記①、②に関する研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究が設定した主たる課題は、以下の三つである。①比較憲法学の分野において、表現の自由に関するアメリカ・モデルの実体的・方法論的特殊性が具体的にどのような形で指摘されているのかを明らかにし、②そうした指摘の妥当性を、連邦最高裁の表現の自由に関する判例を素材に分析し、検討する。ここまでの研究で、表現の自由に関するアメリカ・モデルの真の特殊性を確定する。これを踏まえ、③アメリカ・モデルの特殊性に関するこれまでの説明が没歴史的で文化論的な説明にとどまっていることを指摘し、アメリカ・モデルの特殊性は、モデルが形成された当時のアメリカ憲法理論、表現の自由を取り巻く内的・外的状況に注目しないと説明できないことを明らかにすることである。 現在、本研究は、①、②の課題を概ね終えて、③の課題に取り組んでいる。しかし、2019年末に病気を発症し、翌年10月までの長期入院を余儀なくされ、退院後も身体に障がい(等級は3級)が残り、現在に至るまで加療とリハビリを続けているため、研究の進行がやや遅れており、研究期間を1年延長した。 ただし、身体は少しづつではあるが回復傾向にあり、研究を何とか完成させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、これまでの研究成果を踏まえて、表現の自由に関するアメリカ・モデルの特殊性についての歴史的検討を継続する。ただし病気の影響による身体の障がいを考慮して、具体的にエホバの証人による集会、パレード、戸別訪問などの布教活動に対する規制、国旗敬礼の強制といった当時の表現の自由、信教の自由の中心的な問題に対象を限定し、そこにおける当事者や学者、知識人の議論やそれらの問題に関する最高裁内部での意見対立に焦点を絞って研究を行う。以上の研究を通じて、アメリカ・モデルが、①表現の自由を中心とする市民的自由、さらには違憲審査制をめぐる当時のアメリカ憲法理論に内在する状況と、②当時のアメリカがファシズム、共産主義という「全体主義」国家と対抗せざるを得ず、その中で「全体主義」国家とは異なる「自由」の形をどのように描きだすべきかが問われたという、表現の自由に外在的な状況という、二つの異なった状況が交錯する中で形成されたことを明らかにし、そのことがアメリカ・モデルの特殊性に大きな影響を及ぼしていることを明らかにする。 これまでの研究を取りまとめる論文の執筆を予定しているが、病気の影響で指が痺れており、PCのキーボード入力に時間がかかるため、場合によっては音声入力ソフトの導入も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年末に病気を発症し、2020年10月まで入院し、退院後も身体に障がいが残っており、現在に至るまで加療とリハビリを余儀なくされており、そのため資料の収集が遅れているが、残った資料の収集と分析を進める。
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