本研究は、新たな決済システムが発展しつつも現金が決済手段の約8割を占める日本社会の特殊性を前提に、近時のデジタル・エコノミーやクレジットカードなどの取引決済にみられる事業者への情報集約現象やリアルタイム処理のクラウド会計システムなどに着目して網羅的・目的限定的に情報を取得することにより、徴税漏れ(Tax Gap)を縮小しつつ、当該情報の適切な加工・利用を行う法的システムを構築することを目的とする。 本年度の成果:コロナ禍により研究期間を1年延長しつつ、具体的な最終制度モデルと現状評価、さらにキャッシュでの評価の困難な税や情報処理における専門職の役割の評価などを目的とした。キャッシュレス化を前提とした事業者への情報集約とそれに伴う目的限定的情報取得は現時点でもある程度実現化しているが、事業者負担を考慮したため簡易迅速な情報収集は限定的なものに留まり、中途半端な情報収集による不正申告の可能性といった問題が生じている。 期間全体の成果:キャッシュレス化や事業者への情報集約は引き続き進展し、課税庁によるその取得はかなり事業者側に配慮しながら国内的に実施され(令和元年度税制改正による国税通則法74条の7の2、74条の12第1項等)、国際的にもプラットフォーマーが把握しているシェアリング/ギグ・エコノミーなどの売主に関する情報申告に関する国際的統一ルールに関する議論が深まりつつある。研究期間中にマイナンバーカードの急速な普及やそれに伴うスマホによる確定申告書の提出、キャッシュレス納税など、本研究が目指すモデルを超えて、徴税漏れを縮小しながら情報の適切な加工・利用を行う法的システムが構築されつつある。他方、伝統的(現金)取引の非公式経済化、評価困難性を抱える税の問題や課税庁が入手した情報のクロスチェックが不十分といった「宝の持ち腐れ」現象が生じている。
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