本研究は、公法の観点から、環境リスク・マネジメントを規律する法的枠組みがいかにあるべきかを解明するため、反省法・学習法としての環境法の構造分析を行い、憲法学を中心とする公法学の基礎理論(とりわけ民主主義原理と法治主義原理)に遡って、そのありようを再検討するものである。併せて科学的に不確実な状況下での環境リスク・マネジメントの過少性・過剰性に対処するため、予防原則と比例原則にも再検討を加え、その法構造を明らかにしようとしている。 本年度は、本研究の締め括りとして、民主主義原理と法治主義原理の双方の観点から、環境リスク・マネジメントを規律する法的枠組みの全体像を解明することに力点を置いた。昨年度からのコロナ禍の影響で、ドイツで渉猟し、日本に送った資料が、結局、手元に届かなかった(輸送過程で破棄されたものと推測される)上、渡独して再収集することも適わなかったため、最後まで資料面での制約を受けながらの研究遂行となったが、構築を試みた法的枠組みの骨格は把握できた。すなわち、当該法的枠組みは、柔軟で順応的な対応を可能にする可変的な法的枠組みでなければならないところ、そこに柔軟性を与え、状況の変化に対して順応性を持たせるため、政策指針としての予防原則と法原則としての比例原則を組み合わせて用いることに加え、さらに多様な価値観を受け入れるため、公的主体によるマネジメントに終始せず、主体外の民主過程における様々な関係者とのコミュニケーションを通じて、継続的に価値を吟味していく仕組みが必要であるということが分かった。それゆえ、一方で公的主体の権力性と様々な関係者を結び付ける統治論と、他方で公的主体に対して様々な関係者の自己主張をもたらす権利論が求められているということも、新たに明らかになった。
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