研究課題/領域番号 |
18K01254
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
酒井 貴子 大阪府立大学, 経済学研究科, 教授 (40359782)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 一般的否認規定 / 選択的損失計上 / 軽減税率 / 租税回避 / GAAR |
研究実績の概要 |
今年度においては、主に、消費課税に関係する近年の改正を巡る課題についての考察と、法人所得課税における控除制限についての比較法的研究を行うに際して、GAARの周辺に関係した項目についての検討を深めることができた。 それぞれ概要を説明すると、第一に、2016年税制改正により導入が決定された軽減税率が施行されたが、他国における軽減税率が争われた裁判例において租税回避が疑われたケースもあり、GAARのない場合でも法解釈の適用により否認されるようなことがあれば、予測可能性を阻害し、企業の創造的な事業活動が委縮するのではないかといった考察を行った。また、電子インボイスについて課税庁送信ステップを持つなど発展的な使い方をする国では租税回避や脱税が防止されるケースもあり紹介すると共にさらなる研究課題とした。また関連して、EUでの欧州司法裁判所判決についても検討を進めた。 第二に、法人のアグレッシブな租税負担軽減行為の一つとして、選択的損失計上があげられることがあり、その一例として、損失二回計上といわれるものについてわが国で立法段階で検討されるようになってきているようだが、制度的にはまだ馴染まないものといえよう。アメリカ法では、選択的損失計上防止のため既に制度の随所に防止規定を置くが、日本では対処がない状態である。制度整合性を見定めた制度設計が必要であることを、アメリカ法における損失計上制度を概観し、利益についての課税上の取扱いとの非対称性を指摘して研究成果としてまとめることができた。その他、法人税法における一般否認規定の一つである法人税法132条の2の適用が争われた事件に関しても検討を行い、学会での研究報告にも記録係として参加し、まとめ報告をすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度においては、法人所得課税と消費課税の二方面での租税回避に関係した研究成果を上げることができたと考える。 前者に関連しては、一般的否認規定の適用が争われた事例の評釈をまとめ、検討結果も公表することができ、また、学会においてはその事例にも関連する研究報告での記録係を務めることができたので、他の研究者との交流も進み、一定程度、研究の深化が可能となったと考える。さらに後者に関連しては、前年度の学会報告での成果を踏まえ、消費税関係の分野における租税回避の可能性について様々な事例を検討することができ、また、研究成果を一部公表することができた。これらの研究成果は両方とも、GAARについての総合的検討に資するものといえる。但し、コロナ感染拡大の関係で、海外への研究会の参加が進まなかったことから、予定変更もあり、このような評価となった。
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今後の研究の推進方策 |
新年度においては、延期した分を使っての活動となり制限的な予算であるが、進捗としては研究成果を最終的にまとめる段階にあるので、これまでのGAAR研究についてまとめてきた内容と集めた資料整理を大幅に進め、考察結果をまとめていく。その際、第一に、GAAR採用国におけるルールオブローとの考え方の関係、第二に、個別否認規定との関係について意識しつつ考察を進めたいと考える。 また、日本での一般否認規定の適用例として、ヤフー事件だけでなく、TPR事件やPGM事件など適用例が出てきているので、上記まとめの考察にあたり、これら事件を踏まえての検討も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大のため出張ができず、また、多くの業務が大幅にオンラインでの作業になったことから時間を取られ、予定された研究の一部の進行が滞ったといえることから、次年度予算として利用したいというのが主な理由であるが、さらに、本研究をまとめる方向で進めるにあたり、一般的否認規定の適用事例として新しく出てきた事件を検討した結果、それをも取り込む内容とするべきであると考えたため、資料収集と資料整理の予算を確保する必要がある。
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