2022年度の研究目的は、①日本においてヘイト・スピーチ規制を行うべきかどうか、規制を加えなければヘイト・スピーチは解消しないのかについて、立法事実に基づく丹念な検証を行う、②法規制に依存しないヘイト・スピーチ対策を追求する、というものであった。 ①については、ヘイト・スピーチ規制の現況を探るべく、大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例(平成28年大阪市条例第1号)を取り上げ、その条例の内容とその合憲性が争われた判決を分析した。その結果、当該条例はヘイト・スピーチ規制といわれるものの、「ヘイトスピーチ」に関する大阪市の状況を前提とした、市条例が定義する「ヘイトスピーチ」について、市の定めた非強制的手法を用いたものである。最高裁判決は、そのような制限規定の合憲判断であって、その射程は限定的であることを明らかにした(判批「大阪市「ヘイトスピーチ」条例の合憲性」専修法学論集147号437-455頁)。 ②については、ヘイト・スピーチをなくすための、法律による規制ではない手段を検討すべく公権力による広報等啓発と教育等の非強制的手法について検討を行った。第55回人権思想研究会にて「法的規制に依存しないヘイト・スピーチ対策の検討」というテーマで研究報告を行った。 2018年度~2022年度の主たる成果をまとめると、①いわゆるヘイト・スピーチ解消法や民法・刑法など日本の現行法におけるヘイト・スピーチ規制の枠組みの再確認・再検討を行った、②思想の自由市場の意義等を勘案しつつ、ヘイト・スピーチを取り巻く国家権力の問題が、いま現実に生じている種々の問題とも関連する側面があることを確認したうえで、日本における国家の権力行使の現実を把握することに努め、法規制において規制の主体が公権力の行使者であることの重要性を確認した、③公権力による広報等啓発と教育等の非強制的手法について検討を行った。
|