研究課題/領域番号 |
18K01267
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
高作 正博 関西大学, 法学部, 教授 (80295287)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 私的生活の尊重の権利 / 司法傍受 / 行政傍受 / 個人的自由 / 自由 / 権力分立原理 / 独立行政機関 |
研究実績の概要 |
第1に、監視措置に関する立法の研究である。これには次の3つのカテゴリーがある。①犯罪捜査活動としての監視(司法傍受)である。フランスでは、1980年10月9日の破毀院判決が、不十分な法律での司法傍受を適法と認めたものの、1990年4月24日のヨーロッパ人権裁判所判決で条約違反と判断され、それを契機に立法化が進められた。②犯罪者処遇としての監視である。犯罪を犯した者の監視を行う手段として、固定型の監視装置を用いることを規定した「1997年12月19日法律」、携帯型の監視装置を用いることを規定した「2005年12月12日法律」が定められている。③犯罪予防活動としての監視(行政傍受)である。特に、「1991年7月10日法律」が、安全保障にとって重要な情報の収集等を目的として行政傍受が制度化されてからは、それ以外の目的が追加され、「2015年7月24日法律」では、対外政策、大量破壊兵器拡散防止等が追加された。 第2に、「私的生活の尊重の権利」(プライバシー権)についての憲法院判決の分析である。憲法院は、1990年代までの判決において、自動車、住居、個人情報が問題とされた法律につき、憲法第66条第2項の「個人的自由」を拡大解釈してその憲法上の権利性を承認してきた。しかし、この傾向には問題点も指摘されており、特に、司法機関が関与しない行政傍受にはこの解釈が適合せず、「個人的自由」とは別の規定に根拠と求める見解も主張されていた。そのような状況で、1999年の複数の判決において、1789年「人及び市民の権利宣言」第2条で宣言された「自由」を根拠とする判断が示され、「個人的自由」とは異なる固有の権利として承認された。他方、2004年の判決では、再度「個人的自由」に根拠を求める見解が示されたが、これは、裁判管轄の違いから説明する可能性を示唆するものといいうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に、フランスの法律と憲法院判決の分析により、以下の点が明らかとなった。まず、個人情報の「取得」の段階から立法化がなされていることである。直接には、ヨーロッパ人権裁判所の判決を契機とするものではあるが、「取得」後の「利用」時・「開示」時だけでなく、それ以前の段階から法律上の措置が必要であるとされたことの意義は、法治主義にとって重要であると解される。また、「私的生活の尊重の権利」(プライバシー権)の保障と他の目的との調整の方法である。犯罪捜査・真実発見、滞在・就労の適法性、身元確認の必要性、医療上の必要性、公序の尊重の確保・第三者への対抗可能性、社会保障の財政均衡等、様々な目的との衡量がなされている。 第2に、フランス法に固有の視点と含意も明確となった。私的生活の尊重の権利と様々な規制目的との調整が必要となっている点は、日本法と共通の視点といいうるが、その際に、権力分立原理や独立行政機関の役割が重要とされている点は、示唆に富む。ここでいう権力分立原理とは、司法機関と行政機関との分立であり、もともとは1790年8月16・24日法律第10条・第13条、共和歴3年実月(1795年9月)16日デクレにまでさかのぼる法原則である。それが、「共和国の諸法律により承認された基本原理」(フランス第4共和国憲法前文、フランス第5共和国憲法前文)を通して、現在でも憲法上の原理となっている。権力分立原理は、私的生活の尊重の権利について、司法機関による保護と行政機関による保護との振り分けに、持ち出されている。 以上の理由から、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、次の3つを主たる課題として進める。第1に、憲法院判決のさらなる分析である。これまでは、私的生活の尊重の権利について、その憲法上の「根拠」を明らかにする作業を行ってきた。その研究をさらに進めるとともに、権利の具体的な「内容」とその「限界」について、憲法院判例から多くの法準則を導き出す。その際には、アメリカにおけるプライバシー権との異同も意識しつつ、フランス法における憲法上の概念の輪郭を明確にするよう進めたい。 第2に、行政傍受を定めた「2015年7月24日法律」の分析である。法案の内容、それに対する憲法院の判決、違憲判決を受けた部分を除いて立法化された制度の概要等について、整理する。また、本法律によって情報収集活動が盛り込まれた『国内安全法典』(2012)の全体についても、理解を深める。さらには、本法律をめぐっては様々な批判もなされたが、特に民主制の観点から法律の危険性を指摘する議論を検討し、プライバシー権と民主制とのあるべき均衡点を検討したい。 第3に、行政傍受に関する法律の内容として、情報収集活動の監視機関が置かれていることに注目する。これまでも、様々な法律によって独立行政機関が設置されており、それらの機関(「情報処理および自由に関する全国委員会」(CNIL)、「全国治安傍受監督委員会」(CNCIS)、「国家情報技術監視委員会」(CNCTR))の構成、権限、活動内容等の分析を行い、日本法を再検討する示唆を得たい。また、公表された報告書の分析も行い、その権限の実効性についても実証的に検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の外国出張の予定を次年度に繰り越したことが主な理由である。特に、外国での調査をより実り多いものにするため、国内で閲覧可能な文献を一度調査し、それらの整理を行った後で外国での調査を行うことが適切と考えた。フランスの図書館でしか閲覧できない博士論文や、日本ではまだ入ってきていない書籍・報告書等、多くの未読の文献をリスト化している。それらについては、2019年度に実施する予定の外国出張にて、取得収集するための費用として使う。
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