フランス法における「私的生活の尊重の権利」(プライバシー権)の概念、フランス憲法院の判例分析、個人に対する監視措置や情報収集活動の法規制、民主主義の維持にとっての「私的生活の尊重の権利」の必要性等の研究を踏まえ、それをさらに発展させた。ドイツでは、「情報自己決定権」の名の下で、国家による個人情報の収集活動の合憲性が議論されてきた。個人情報の取得収集の合憲性が問題となった国勢調査判決、展示作品の保護目的でのビデオ監視及びデータ保存の合憲性が問題となったレーゲンスブルク決定、公道上の車両ナンバーを認証するシステムの設置とナンバー・データの保存・利用の合憲性が問題となったNシステム判決が注目される。これらの判決では、国家の監視措置を基本権に対する「介入」と捉え、法律による授権の必要性が指摘されている。監視措置に「委縮効果」が存する場合には、介入が存在するものとされている。 フランス法、ドイツ法の研究を踏まえた、日本法におけるプライバシー権の再構成についての研究にも着手した。公立学校の再任用選考の際に受けた「意向確認」につき、「思想内容に及ぶ質問であるため、回答できない」とした原告が、その回答を理由に不採用となった事件を題材に、思想・良心の自由に加えて内心の自由、プライバシーの権利から検討する必要性を指摘した。この研究により、従来は「私的生活の尊重の権利」(プライバシー権)には必ずしも含められてこなかった新しい要素を含むものとして、権利概念の再構成を行う可能性が生じている。これにより、「私的生活の尊重の権利」(プライバシー権)は、他者から秘匿しておきたい「私生活」だけでなく、表現行為を行う「公共圏」での市民的自由、その前提としての精神作用を国家や他者からの干渉を受けることなく展開する自由等も含むものとして捉えられることとなる。
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