研究課題/領域番号 |
18K01271
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研究機関 | 別府大学 |
研究代表者 |
織原 保尚 別府大学, 文学部, 准教授 (50586823)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アメリカ障害者教育法 / 発達障害 / 障害法 / Endrew F. 判決 / 無償かつ適切な公教育 |
研究実績の概要 |
2018年度は、11月に行われた障害に関する法についての研究に関心のある研究者・実務家によって組織された「障害法学会」の第3回総会において「シンポジウム:教育権と障害法」において「アメリカにおける障害のある子どもの教育―障害者教育法と無償かつ適切な公教育(Free Appropriate Public Education)」と題して35分間の個別報告の後、45分間のシンポジウムにもシンポジストとして参加をした。アメリカ障害者教育法(IDEA)の規定を概観したのちに、特に2017年に障害者教育法に示される「無償かつ適切な公教育」についての教育内容をめぐって争われた、発達障害のある小学生の子どもの教育に関する判例である、連邦最高裁判決Endrew F判決を中心に、内容の紹介や、判決の評価なども報告している。 このEndrew F判決については、障害のある子どもの教育についての支援者などは、それまでの1982年の連邦最高裁判決であるRowley 判決と比較して、障害のある子どもの教育の基準を高めるものだとして、非常に好意的に評価している。しかし一方で、訴訟にかかる専門家報酬の負担は親の側になることや、子どもの教育プログラムについての裁判においては立証責任は親の側になること、また、Endrewの場合は自費で私立学校に通わせるなどの余裕があったりしたからうまくいったのであって、このままでは、低所得者にとっては教育に対する格差が広がることになることにならないかなど、懸念も指摘されているところである。 この報告に関しては、2019年度に、論文の形で公表する予定である。また、障害法学会においては、2018年度から理事を務めることになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、アメリカの判例や法律文献のデータベースであるLexisを契約し、文献収集の効率が飛躍的に上がった。前述のように「アメリカにおける障害のある子どもの教育―障害者教育法と無償かつ適切な公教育(Free Appropriate Public Education)」というタイトルで学会報告も一度行い、さらにこれを論文化するという方向性で論文も順調に執筆しており、2019年度には公刊できると思われる。 並行して日本における状況についても調査を続けている。実際に在住する別府市において、小学校入学時における普通学級、特別支援学級、さらには特別支援学校など、どのような手続によって発達障害のある子どもの学校が決定されるのか、親の関与や決定時のプロセスにおける問題点などについて、調査を進めている。また、それ以前の時期として、幼稚園や、その時期における療育の制度などについても調査を深めているところである。これらについても、早い時期に論文として公刊できるものと思われる。 2019年度の課題としてはアメリカに行っての調査がある。まだ具体的なところまでは進めることはできていないが、留学経験のある先生方などに相談をしているところであり、近々にその方向性が定まるものと思われる。海外における調査という部分では、2018年度は、分担者として参加している科研の課題である「医療行為の選択と同意における判断能力の不十分な人への意思決定支援に関する研究」において、イギリスでの調査を行った。この調査の経験も生かして、アメリカにおける調査を行っていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように、まずは2018年度に障害法学会で報告した「アメリカにおける障害のある子どもの教育――障害者教育法と無償かつ適切な公教育(Free Appropriate Public Education)」を論文化するのが、前半の課題である。資料の精査、読み込みなどを進めていき、できるだけ良い論文に仕上げたい。Lexisなども活用し、最新の議論を紹介できるようにしていきたい。これが8月までの予定である。 その後には、アメリカにおける調査がある。前述のように、まだ具体的な話がまとまっていないが、5月6月中に、留学経験のある先生方にお会いする機会が多い予定になっているので、そのあたりのタイミングで、詳細を煮詰めていきたい。調査の結果は、2020年度に論文としてまとめたいと考えている。 2019年度は、日本の状況についても研究を進めていきたい。特に小学校入学時における問題点など、日本で現在実際に訴訟も行われており、制度として不十分な点などもあるように思われる。アメリカでの議論とも照らし合わせ、問題点を指摘するような論文を書くことを考えている。 以上のようなことを進めながら、2020年度には、特に就学前から就学前後における発達障害のある子どもの教育を受ける権利について、アメリカ障害者教育法と日本における議論をまとめ、またアメリカ調査の結果も踏まえた論文を、集大成として書くことを考えている。アメリカの状況を研究することにより、日本への良い示唆を得ることができるように頑張りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
データベースを契約した際に若干余った額である。あまりに少額すぎて使い道がなかったため、次年度の旅費等に使いたいと考えている。
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