研究課題
EUの権限の発展については、EUと構成国の権限配分、EU司法裁判所と他の裁判所との関係などを中心に、研究を行った。具体的には、EUの機関である欧州中央銀行(ECB)が権限付与の範囲を超えて、措置を採択したか否かが問題となったPSPP事件で、ドイツ連邦憲法裁判所が初めてECBの行為およびEU司法裁判所の判決をultra-vires(権限踰越)と判断とした、同裁判所の判決を扱った(雑誌『自治研究』に公表)。また、フランス憲法に導入されたQPC(憲法優先問題審査)手続をめぐり、フランス破棄院がEU司法裁判所に先決裁定を求めた事件を扱った(雑誌『自治研究』に公表)。さらに、EU司法裁判所と国内下級裁判所および国内上級裁判所の三角関係を明確化する研究を行った。英国離脱(Brexit)につき、権限委譲の観点から考察を行った(雑誌『EU法研究』に公表)。また、昨年度に国際シンポジウム等で報告したテーマにつき、EUが日本と締結した経済連携協定(EPA)と戦略的連携協定(SPA)について英語およびフランス語で論文を公表した。権限と個人の権利の両方に関係するが、個人データ保護に関連して、EU基本権憲章に法的拘束力を与えられると同時にEUレベルで措置が統一されることを受け、ドイツ連邦憲法裁判所は、これまでドイツ基本法(憲法)に基づき基本権保障していたのが、EU基本権に基づき基本権を保障するとした「忘れられる権利」事件を取り扱った(雑誌『自治研究』に公表)。欧州人権裁判所の「忘れられる権利」判決も取り扱った(雑誌『人権判例報』に公表)。さらに、個人の権利を念頭におきながら、環境法に関しこれまでの公表してきた論文等を基礎としながら、1冊の本、『概説EU環境法』としてまとめた。コロナ禍のため、予定された報告がキャンセルとなる一方で、ZOOM等を利用した国際セミナー等に参加した。
1: 当初の計画以上に進展している
在外研究中(2020年4月から9月まではドイツ・ミュンスター大学、10月からはルクセンブルクのマックスプランク手続法研究所)であり、研究時間を十分にとることができた。ミュンスター大学では、コロナ禍のため、図書館等は閉鎖されたが、オンラインデータベースへのアクセスは可能であり、資料収集は行うことができた。また、大学はオンライン講義となり、EU法、比較公法、環境法など、研究に関連する科目の講義を聴講した。限られた範囲ではあるが、ミュンスター大学の研究者とコンタクトをとり、意見交換を行った。外出禁止となっていた期間があり、人と話さない状況となってしまうところであったが、インターネットを通じたフランス語のレッスンを受けた。フランスの憲法、裁判所、憲法院、国務院、破棄院などの判例をテキストとしたため、これまでの研究対象であった、EU司法裁判所、ドイツ連邦憲法裁判所の他、フランスの判例および欧州人権裁判所の判例も研究対象とすることができるようになり、研究の幅が広がった。研究実績のところで言及した、QPC手続に関する事件、欧州人権裁判所の「忘れられる権利」、Brexitの論文等は、フランス語の資料を読んで分析したものである。10月よりルクセンブルクにあるマックスプランク研究所で研究を行った。研究所は制限はあるが、図書館を含め、研究所で研究を行うことができた。ここでは、国際法・EU法研究者と意見交換を行い、交流することができた。特にマックスプランク研究所とルクセンブルク大学は、同じ建物にあり、ルクセンブルク大学の研究者と意見交換をすることができた。また、同研究所では、研究会がZOOM等を通じて毎週2回(1回1時間15分程度)があり、そこに参加した。ルクセンブルク大学のEU法研究会にも参加する機会をいただき、参加した。
引き続き、EUの権限と個人の権利を中心に研究を進めていく。先決裁定手続に関する、EU司法裁判所と国内裁判所との関係(雑誌『自治研究』の隔月連載)の研究を続けていく。9月までルクセンブルクに滞在していることを利用して、EU司法裁判所に関する本を執筆し、刊行する予定である。また、環境との関係で個人の権利を認める判決がオランダ、フランス、ドイツ等で下されていることに注目し、環境と人権の問題により深く取り組んでいく。11月には、マックスプランク研究所のシンポジウムにおいて、「EUにおける将来世代の権利」をテーマとして、報告予定である。個人の権利に関連して、動物倫理や動物権利の研究を行う予定である。幅広く、EU市民権、EU人権についても研究を深めていく。また、英国離脱後にEUと英国が二国間協定を締結した。この協定を権限の観点から分析する。一橋EU法研究会でBrexitに関するシンポジウムを開催し(5月、7月)、報告を行う予定(7月)である。その成果は、雑誌『EU法研究』に公表予定である。これらの研究を推進する方法としては、マックスプランク研究所は、研究環境が整っているため、在外研究中にできるだけ資料収集を行い、研究時間も確保できることから、論文の執筆・公表など、アウトプットにも力を注いでいく。また、同研究所の研究員、ルクセンブルク大学の研究者と意見交換を行っていきたい。ZOOM等で開催される、国際セミナー等に積極的に参加していく。12月には、フランスのトゥール大学の国際シンポジウムで報告、ポワチエ大学において報告予定である。
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