研究課題/領域番号 |
18K01275
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石川 知子 名古屋大学, 国際開発研究科, 准教授 (20632392)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | CSR / 投資家対国の紛争解決制度 |
研究実績の概要 |
研究の2年目にあたる2019年度は、初年度の積み残しである投資協定・環境条約・人権条約等における私人の責任に関する規定のデータ収集を引き続き進めつつ、「多国籍企業の責任に係る国際法の現状及び展開」につき詳細な検討を行った。まず、多国籍企業の責任に関し、多国籍企業の国際法上の法的地位、これらを直接拘束する慣習国際法及び条約国際法の有無に係る判例、学術文献、ILC等の報告書等の検討を通じ検討し、現段階では、多国籍企業を直接拘束する国際法は極めて少ないこと、代わって、企業の社会的責任(CSR)に関する国際原則、宣言、ガイドラインといった「ソフト・ロー」(例:多国籍企業の行動規範に係る国連草案、多国籍企業に対するOECDガイドライン、ビジネスと人権に係る指針原則等)により実現が図られてきたことを確認する。その前提のもと、CSR概念につき、その歴史、先進国におけるCSRの国内実行(特に米国、英国、フランス)に係る調査及び国際社会におけるCSRの発展を示す資料の調査を通じて検討する。また、多国籍企業の法的拘束力ある義務規定の制定に係る最近の展開についても検討する。 2019年度は、次に、投資家対国の紛争解決制度における国による反対請求の実務と可能性につき、詳細な検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CSR概念の詳細な検討を通じ、一般に「企業による自主的な努力約束」と理解されることが多いCSR概念が、実際には様々な形で法的拘束力を有し得ること、また、紛争解決制度において実質的な影響を与え得ることを論証した。また、投資協定におけるCSR規定を収集し、そのデータを使用した論文を発表し、さらに、Columbia FDI Perspectiveに”Materializing corporate social responsibility in investor-state dispute settlement”と題する論文を発表予定である(査読回答中)。 投資家対国の紛争解決制度における国による反対請求の実務と可能性につき検討を行い、その結果は論文として発表し、さらに、Jean Ho and Mavluda Sattorova (eds.) Investors' International Law (Hart Publishing, 2021)に1章掲載予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度である2020年度は、投資家対国の紛争解決制度においてCSRが果たしえる役割につき、研究の初年度及び2年度に構築した理論をまとめ、その上で、当該理論が直面する課題につき検討する。具体的には、CSRに基づく投資家の請求額減額、CSRの国内法的効力等といった事項につき、投資紛争解決制度の仲裁人に専門性がないことを補う必要性、また、CSRの実行には有効なモニタリングの制度が必要であること、を論じる予定である。具体的には、独立専門家証人の積極的活用、企業及び国によるCSRの実行確保に係るモニタリング制度の設立等につき、様々な国際・国内判例及び実行の検討を通じて検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外出張が新型コロナウィルス感染症の影響でキャンセルになったことによる。
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