研究課題/領域番号 |
18K01275
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石川 知子 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (20632392)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | CSR / 投資紛争 / ESG / 社会的操業許可 / ビジネスと人権 |
研究実績の概要 |
研究の最終段階として、投資紛争解決手続におけるCSRの役割を、次の点を中心に検討した。 ①投資の実体保護規定の条約解釈においてCSRが果たし得る役割を検討する。特に、ビジネスと人権に関する各種のソフト・ローが解釈に及ぼし得る影響を検討した。② 被申立国による、申立人投資家に対する反対請求を通じた企業責任の取り込み及び利益調整の可能性を、仲裁廷の判例及び文献の調査、並びに投資協定の精査により検討した。合わせて、社会的操業許可(Social Licence to Operate)の概念が投資協定の解釈に及ぼす影響につき、詳細に検討した。③企業の責任を根拠とした、損害額の減額を通じた利益調整の可能性につき、その理論的根拠及び具体的方法双方につき検討する。前者については、寄与過失(contributory negligence)や信義(good faith)原則適用の可能性を中心に、後者については、損害額の算定方法を、例えばDCF方式における減額の算定根拠や環境損害の評価方式を、判例の検討や文献調査を通じて、可能な限り具体的に検証する。④ ①ー③の分析結果を、現在の投資紛争解決制度の改正の議論にどう反映させられるか、という点を詳細に検討し、投資によって影響を受ける地域住民他のステークホルダーの利益を反映し、投資家と国との間の関係継続に資する一つの紛争解決制度の提案として、投資紛争における調停の積極的利用につき提言を行なった。
本研究の成果は、2021年度の学会発表、論文発表、共著として発表した。2022年の秋、ケンブリッジ大学出版会から単著として出版される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた研究範囲をさらに拡大し、最近重要性を増している「社会的操業許可」(Social Licence to Operate)の概念や、投資紛争における調停の利用等、問題の検討をさらに深めることができた。
研究の結果を単著としてケンブリッジ大学から出版することができたことは大きな成果である(草稿提出済み、2022年秋出版予定)。
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今後の研究の推進方策 |
単著の出版を受け、学会発表、批評への返答等を通じ、さらに分析を深める予定である。また、本研究で検討した、社会的操業許可、投資紛争における調停の利用といった、新規性の高い概念を、気候変動に対する企業の社会的責任、という特定の分野に当てはめ、分析を深めることを考えている。具体的には、二酸化炭素利用・貯留技術(CCUS)に対する社会的操業許可をどのように取得し、維持すべきか、長いプロジェクト期間の間に、社会的操業許可が減少し、失われた場合、紛争を予防し、地域の利益を反映するために、調停の利用が適切か否か、といった点を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナのため、予定していた国際学会発表を延期している状況のため、次年度に繰り越した。
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