今年度も、先行研究の網羅的把握と共に、関連する仲裁判断例の収集・分析を中心に行った。それと共に、現在国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)第三作業部会(WGIII)において進行中の投資紛争処理改革作業の議論の展開を追い、諸国あるいは関連するステイクホルダーがどのような関心を抱いているかの分析に努めた。また、日本も当事国となっているCPTPPや、EUが締結する条約において、関連する仲裁人倫理規定が具体的に定められるようになってきており、その比較検討にも着手した。 加えて、今年度は、やや広い視野から、他の国際裁判所・仲裁における判断者の独立・不偏性に関する分析も進めた。検討の対象とした機関は、国際司法裁判所・国際海洋法裁判所・WTO紛争処理機関上級機関・国家間仲裁・国際刑事裁判所・旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所・ルワンダ国際刑事裁判所・ヨーロッパ人権裁判所・EU裁判所などである。 そして、来年度に行う研究のとりまとめの基盤となる作業として、20世紀末からの国際紛争処理の大きな流れをつかむ論考と、国際裁判官・仲裁人の正統性に関する論考とをそれぞれ英語で執筆し、これらは査読を経て来年度中には刊行される予定である。そこでは、先に述べた「他の」国際裁判所・仲裁における判断者の独立・不偏性に関する検討を深めており、それらを踏まえた上で、投資条約仲裁の仲裁人の独立・普遍性の特殊性についての検討を進めている。
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