当初の計画で予定していたEUおよび各加盟国における経済制裁の実施に関わる関連法令および実務上の問題についてのヒアリングを含む現地調査が、引き続く新型コロナウィルス対策のために実施が困難となったことから、今後に同様の調査を行うための調整を関係機関の担当者との間で行った。 本年度は将来的な現地調査を実施するための準備作業を行うと共に、引き続き遠隔からもオンラインあるいは郵送で入手可能な資料の収集と2次文献の分析につとめ、理論的な仮説の検証を行うこととした。本研究における仮説は、国際法委員会をはじめとする学説が支持を示すようになっている、普遍的義務の違反により第三国に対抗措置に訴える資格が発生するという見解は、対抗措置を国家責任法の一部として捉えた場合に観念的に導かれる可能性にすぎず、そうした資格が発生することが認められるのは内的自決を損なうような重大な人権侵害と認めうる場合に限られるという可能性は排除されないこと、そして国家実行は後者の可能性を顕現するものであるということであった。本研究を通じて得られた資料に照らす限り、本研究のこうした仮説は、実際にも妥当性を有するものと認めうるものであると言える。もっとも、この点をさらに実証的に検証するためには、惜しくも実施することができなかった関係当局における政策決定者に対する調査を含めた各国・機関の政策決定過程についてのより緻密な調査を要する。 他方で、2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻に対して、欧米及び日本をはじめとして国際社会は、国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシアの主要銀行の排除や最恵国待遇の停止などに迅速に訴えることで対応した。本事例はロシアによるウクライナに対する明白な侵略行為に対する第三国による対抗措置と認めうるものである。当該事例に照らしても本研究の仮説に妥当性を認めうるかは、検討を要する。
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