研究課題/領域番号 |
18K01284
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
福永 有夏 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (10326126)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | WTO紛争処理 / 投資仲裁 / 評価の余地 / 先例 / 解釈宣言 |
研究実績の概要 |
2018年度は、主として2つの問題の問題を取り上げた。 1つは、国際経済紛争処理制度、特に投資仲裁制度における評価の余地(margin of appreciation)原則の位置づけである。投資仲裁制度においては、国家の非経済的規制がしばしば申立ての対象となるが、投資協定違反に対する救済を図りつつも国家の主権(規制権限)を一定程度配慮することの必要性が高まっている。関連して、ウルグアイのタバコ・パッケージ規制をめぐる投資仲裁において、ウルグアイの規制権限を尊重すべき理由として仲裁廷が評価の余地原則を用いたことが大きな議論を呼んだ。2018年度は、一般国際法における評価の余地原則の位置づけを踏まえつつ、投資仲裁における評価の余地原則の適用可能性を論じる英文論文を執筆・完成し、欧州学術誌に公表することができた。 もう1つは、国際経済紛争処理制度、特にWTO紛争処理制度における事実上の先例拘束性の意義と問題に関する研究である。WTO紛争処理制度は、上訴機関である上級委員会の解釈慣行の集積により、事実上の判例ともいえるものが発展し、WTO法の一貫した発展に貢献している。しかし近年、米国がこれを上級委員会による法形成として批判し、上級委員会の委員の任命承認を拒否し、上級委員会が機能不全に陥る恐れが高まっている。2018年度の研究においては、一般国際法における先例の意義と解釈宣言についての議論を踏まえつつ、WTO紛争処理における先例の意義や問題点について分析する報告を国際学会において行った。 このほか、国際経済紛争処理制度の改革に関する議論を踏まえつつ、投資仲裁制度及びWTO紛争処理制度の現状や改革に関する様々な報告や論考を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、当初予定した研究テーマについて、国際会議発表や国際学術誌掲載を行うことができた。 また、国際経済紛争処理制度改革に関する短い論考や発表等を通じて研究成果の一部を社会に還元することができた。 2018年度の国際会議に提出したペーパーの一部は、共同研究者の都合によりまだ刊行物として公表に至っていないが、すでに提出は終えている。
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今後の研究の推進方策 |
国際経済紛争処理制度の改革がますます緊急性を増しており、2019年度以降の研究はこの点を意識しながら研究を進めていくことになる。 改革に関する議論は様々な視点で行われているが、本研究課題は「国際経済紛争処理制度における国際法の原則及び規則」をテーマとしており、当然のことながら今後改革論に関する研究を進めるにあたっては、経済分野以外の国際法の原則や規則との比較分析を主たる視点としつつ進めていく。 国際共同研究加速基金(A)の内定をいただいたことを踏まえ、共同研究の下地を作る活動を進めていく予定である。
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